貸主側から賃貸借契約の解消を申し出る場合、一般的には立退料が発生します。立退料は賃貸人と賃借人それぞれの事情を比較しながら考慮されるため、当事者間で「妥当な金額」を導き出すことは簡単ではありません。今回「賃貸借契約の解消における立退料の算定」について、弁護士の北村亮典氏が具体的な裁判事例を解説します。
60歳の物件オーナー、契約違反を犯した借主に立退要求→借主「3,000万円払え」で訴訟…裁判所が下した「妥当な立退料」【弁護士が解説】
シェアハウス事業のために賃貸した物件の立退料が問題となった裁判例
【賃貸物件オーナーからの相談】
賃借人会社は当該物件を改築してシェアハウスとして貸し出していたようですが、賃貸してから1年半が経過した頃、当該物件内で火事が発生しました。その際の消防署の調査により、建物をシェアハウスとして使用することにつき、建築基準法上の用途変更手続を怠っていたことが判明しました。
そこで、私は賃借人会社に対して、火災を発生させたこと、建築基準法関係規定上不適合の疑義がある旨の指摘を受けたことが賃貸借契約に反し、かつ信頼関係を破壊する行為であるとして、契約の解約に正当事由があると主張しました。また、立退料として、6ヵ月分の家賃相当額を提示しました。
なお、私は、解約後にこの建物を建て替えて自宅として使用したいと考えています。
しかし、賃借人会社は解約を争ってきており、また立退料として3,000万円を要求してきています。
私の解約の主張は認められるのでしょうか。また、立退料はどの程度必要になるのでしょうか。
【弁護士の説明】
建物賃貸借契約を解約する場合の正当事由
本件は、東京地方裁判所令和3年8月18日判決の事例をモチーフとしたものです。
賃貸人が、建物の建替えの必要性等を理由として賃借人に対して立退きを求める場合はまず、賃貸人側から、賃貸借契約の解約の申入れを行う必要があります。
この解約の申入れを行うことにより、解約申入れ時から6ヵ月を経過すれば賃貸借契約は終了となります(借地借家法27条1項)が、賃貸人から解約の申入れをしたからと言って当然に解約が認められるわけでありません。
賃借人が解約を拒んだ場合には、解約の申入れに「正当事由」がなければ、法律上の効力が生じないとされています。
この「正当事由」があるかどうかは、借地借家法28条が
と規定している通り、賃貸人、賃借人それぞれの事情を比較して判断されます。