賃貸物件で死者が出た場合、その部屋は「事故物件」として借り手がつきにくくなります。そのため、貸し手としては原状回復や家賃の減額など、さまざまな対策に苦労するケースも少なくありません。都心にあるタワマンの1室を所有するオーナーは、当該物件から転落して亡くなった借主の同居人と相続人に対して損害賠償を求め提訴。裁判所はどう判断したのでしょうか。実際の判例をもとに、弁護士の北村亮典氏が解説します。
(※写真はイメージです/PIXTA)
都内タワマン13階から住人が飛び降り→物件オーナーが借主の相続人に「損害賠償564万円」を請求…裁判所が下した判決は【弁護士が判例解説】
タワマンが「事故物件」に…損害賠償請求は認められる?
【賃貸マンションオーナーからの相談】
私は東京都心部に所在するタワーマンション1室を所有しています。そのマンションの1室について、賃借人2名に対して、賃料を月23万5,000円とする賃貸借契約を締結しました。
ところが、その部屋の賃借人のうち1名が部屋のバルコニー(13階)から転落して死亡してしまうという事故が生じました。
その後、この物件は「自殺のあった物件」として新たな賃借人を見つけるのに時間がかかり、また賃料も月23万5,000円から15万円に下げざるを得ないことになってしまいました。
そこで、もう1名の賃借人と、亡くなった賃借人の相続人に対してその賠償を求めました。具体的には、新規入居者に対しては月額賃料を15万円にまで減額し、さらには空室期間の賃料相当額も得られなかったとして、合計564万円(賃料の24ヵ月分)を連帯して支払うよう請求しています。
これに対して、賃借人側は、「亡くなった賃借人は自殺ではなく転落事故である」、「今回の事故はバルコニーで発生したもので、貸室内での死亡ではないので損害賠償は負わないはずだ」などと主張してこちらの請求を争っています。
こちらの主張は認められるのでしょうか。
ところが、その部屋の賃借人のうち1名が部屋のバルコニー(13階)から転落して死亡してしまうという事故が生じました。
その後、この物件は「自殺のあった物件」として新たな賃借人を見つけるのに時間がかかり、また賃料も月23万5,000円から15万円に下げざるを得ないことになってしまいました。
そこで、もう1名の賃借人と、亡くなった賃借人の相続人に対してその賠償を求めました。具体的には、新規入居者に対しては月額賃料を15万円にまで減額し、さらには空室期間の賃料相当額も得られなかったとして、合計564万円(賃料の24ヵ月分)を連帯して支払うよう請求しています。
これに対して、賃借人側は、「亡くなった賃借人は自殺ではなく転落事故である」、「今回の事故はバルコニーで発生したもので、貸室内での死亡ではないので損害賠償は負わないはずだ」などと主張してこちらの請求を争っています。
こちらの主張は認められるのでしょうか。
裁判で問題となった「3つ」の争点
【弁護士の解説】
本件は、東京地方裁判所令和4年10月14日判決の事例をモチーフにしたものです。
この事例は、賃貸物件における自殺が発生した場合の心理的瑕疵に関する裁判例ですが、この事例では、主に以下の点が争点となりました。
1.賃借人の死因が自殺か否か
監察医による死体検案書やバルコニーの構造からみて飛び降りであることが推測されましたが、賃借人側は事故死の可能性を主張したため、賃借人の死因が問題となりました。
2.賃借人に「自殺をしない義務」が含まれるか(善管注意義務の範囲)
一般的に賃借人には目的物を善良なる管理者の注意をもって使用収益する義務があります。これに「目的物で自殺しないこと」が含まれるか、自殺が心理的瑕疵をもたらすことを賃借人が予見すべきかが問題となりました。
3.賃借人の自殺と賃貸人の損害との相当因果関係
自殺が原因となって生じる賃料の減額や空室期間などの損害が、どの範囲・期間・金額まで相当因果関係に含まれるか、特に都心部の賃貸マンションであったことや、バルコニーでの飛び降り自殺と室内自殺との違いが損害の評価に影響を与えるかが問題となりました。