裁判所が下した「妥当な立退料」

本事例においては、裁判所は、上記の事情のうち、賃貸人、賃借人それぞれが、当該建物を必要とする事情と立退料の額について検討をしたうえで、立退料として1,500万円を支払うことで、解約の正当事由があると判断しました。以下、裁判例の内容を解説します。

賃貸人と賃借人双方の事情

まず、賃貸人側の事情として、この賃貸物件を建て替えて自宅にする必要があると主張されていたことについて、裁判所は、「一件記録によっても原告の計画を実現するために本件建物を自宅として利用することが必須であるとまでいえる事情は認められないから、原告の本件建物使用の必要性はそれほど高度のものとはいえない。」と述べています。

他方で、賃借人側の事情についても、

①「被告会社の本件建物利用は、シェアハウスとしての賃貸事業目的であり、また、被告会社はシェアハウス事業を全国で展開しているとのことからすると、被告会社の本件建物の使用の必要性は、投下資本の回収、経済的合理性に基づくものである」


②「これに加え、……被告会社は、本件賃貸借契約上、本件建物をシェアハウスとして利用するにあたって必要な官公庁への届出許可等を被告会社の責任で取得する義務があるところ、本件建物をシェアハウスとして利用し始めた後である、平成31年2月18日には大田区から不適合の指摘を受けており(甲3)、被告会社には(解除事由に至らない程度の)債務不履行があるといえる上、被告会社は、令和2年9月3日には、大田区に対して是正に係る誓約書を提出しながら、結果として口頭弁論終結時点においても是正工事を行っていないこと」

の2点を考慮すると「正当理由の補完事由としての立退料の額によっては、原告による解約申入れにつき正当理由があるものということができる」と述べました。

立退料はどのように決められたか

以上を踏まえて、裁判所は、立退料の金額について、以下のとおり、主に賃借人の投下資本の金額(改築にかかった費用)をベースにして1,500万円が相当であると判断しました。

①本件賃貸借契約が締結され、被告会社に本件建物が引き渡されたのが、平成29年5月11日頃であり、解約申入れの効力が発生する令和3年10月3日(令和3年4月2日から6ヵ月を経過した日)までに4年4月が経過することになること


②被告会社が本件建物をシェアハウスとして改装するのにかかった費用は被告会社によれば2,000万円以上とのことであり、また、本件建物を法令に適合するように改装工事を行うとすればさらに相当額の費用が掛かること

等の事情を総合考慮すると、1,500万円をもって相当であると認める。

事業用賃貸物件の立退料の算定方法はケースバイケースになることが多々ありますが、本件はシェアハウスとして使用されていた賃貸物件において、主に投下資本の金額をベースにして立退料を算定した事例として参考になります。

この記事は2024年1月28日時点の情報に基づいて書かれています。

北村 亮典
大江・田中・大宅法律事務所
弁護士