貸主側から賃貸借契約の解消を申し出る場合、一般的には立退料が発生します。立退料は賃貸人と賃借人それぞれの事情を比較しながら考慮されるため、当事者間で「妥当な金額」を導き出すことは簡単ではありません。今回「賃貸借契約の解消における立退料の算定」について、弁護士の北村亮典氏が具体的な裁判事例を解説します。

60歳の物件オーナー、契約違反を犯した借主に立退要求→借主「3,000万円払え」で訴訟…裁判所が下した「妥当な立退料」【弁護士が解説】
裁判所が下した「妥当な立退料」
本事例においては、裁判所は、上記の事情のうち、賃貸人、賃借人それぞれが、当該建物を必要とする事情と立退料の額について検討をしたうえで、立退料として1,500万円を支払うことで、解約の正当事由があると判断しました。以下、裁判例の内容を解説します。
賃貸人と賃借人双方の事情
まず、賃貸人側の事情として、この賃貸物件を建て替えて自宅にする必要があると主張されていたことについて、裁判所は、「一件記録によっても原告の計画を実現するために本件建物を自宅として利用することが必須であるとまでいえる事情は認められないから、原告の本件建物使用の必要性はそれほど高度のものとはいえない。」と述べています。
他方で、賃借人側の事情についても、
②「これに加え、……被告会社は、本件賃貸借契約上、本件建物をシェアハウスとして利用するにあたって必要な官公庁への届出許可等を被告会社の責任で取得する義務があるところ、本件建物をシェアハウスとして利用し始めた後である、平成31年2月18日には大田区から不適合の指摘を受けており(甲3)、被告会社には(解除事由に至らない程度の)債務不履行があるといえる上、被告会社は、令和2年9月3日には、大田区に対して是正に係る誓約書を提出しながら、結果として口頭弁論終結時点においても是正工事を行っていないこと」
の2点を考慮すると「正当理由の補完事由としての立退料の額によっては、原告による解約申入れにつき正当理由があるものということができる」と述べました。
立退料はどのように決められたか
以上を踏まえて、裁判所は、立退料の金額について、以下のとおり、主に賃借人の投下資本の金額(改築にかかった費用)をベースにして1,500万円が相当であると判断しました。
②被告会社が本件建物をシェアハウスとして改装するのにかかった費用は被告会社によれば2,000万円以上とのことであり、また、本件建物を法令に適合するように改装工事を行うとすればさらに相当額の費用が掛かること
等の事情を総合考慮すると、1,500万円をもって相当であると認める。
事業用賃貸物件の立退料の算定方法はケースバイケースになることが多々ありますが、本件はシェアハウスとして使用されていた賃貸物件において、主に投下資本の金額をベースにして立退料を算定した事例として参考になります。
この記事は2024年1月28日時点の情報に基づいて書かれています。
北村 亮典
大江・田中・大宅法律事務所
弁護士