ロシアのWTO加盟

一見、日本と関係のない遠い話のようだが、日本国内もテロとの戦いに巻き込まれた。国際手配されたアルカイダのメンバーが偽造旅券を使って来日し、新潟に潜伏していたのである。新潟を拠点に中古車を輸出し、アルカイダにテロ資金が送られていたといわれている。アルカイダは日本を標的のひとつに名指しした。

新潟港は中東向けの中古日本車の船積み拠点だったが、同時にロシア向けにも輸出していた。四輪駆動車と、ハイエースをはじめとする業務用ワンボックスが人気だった。しかしロシアが国内生産奨励のため、中古日本車の関税を200%以上に引き上げた。以後、新潟港はロシアから天然ガスを輸入することを主な目的とする港になってしまった。

07年12月、トヨタが日系初となるロシアでの現地生産を開始し、サンクトペテルブルクでカムリを生産した。先立って部品輸入関税が低減され、すでにルノーとフォードが工場を開設していた。しかし08年12月、ロシアは手のひらを返し、自動車関税を引き上げ、国際的に批判を浴びた。このような朝令暮改を国際社会から警戒されつつもロシアは2012年、165番目のWTO加盟国となった。

テロの最前線と日本車

紛争地帯への「不適切な」物流は、ロシアだけの問題ではない。アメリカ政府は2015年、中東の紛争地帯で日本製の四駆、特にトヨタ・ランドクルーザが武装勢力に多く使われていることを問題視し、トヨタに説明を求めた。三菱パジェロ、日産サファリ同様、優れた悪路走破性と頑丈な作りのため、日本車は世界各地で重宝されてきた。トヨタ・ハイエースも含め、海外で需要が高い車種は、常に国内盗難被害ランキングの高位に入ってしまう。

ランドクルーザー70系は84年の登場だが、現行型と並行していまも生産され、海外で販売されている。車のエンジン停止が人命に直結するような極地では、非電子制御ゆえの強さ、ロバストネスが発揮されるのである。昨今のビンテージ・カー人気の一端は、このように再発見される車の魅力とも関係していよう。

映画『キャスト・アウェイ』や『プライベート・ライアン』で好演したトム・ハンクスも、長年ランドクルーザーFJ40の愛用者だった。21年にモデルチェンジした現行型の300系に、EVどころかハイブリッドすらラインアップされない理由は、「地球上のどこからでも生きて帰れるため」といわれている。

ランドクルーザーは民生品のため、テロ組織による購入についてどこまでメーカーが説明責任を負うのか微妙だ。トヨタは2021年8月、ランドクルーザーがモデルチェンジした際に対策を施し、新車購入時に「輸出防止事前チェックシート」への署名を求めた。

車両登録後一年間、輸出・転売をしない、販売店側の判断で注文をキャンセルしうる、そして誓約内容に反した場合は出禁になる可能性などが明記された。転売自体が違法ではないなか、武装勢力のような「望ましくないユーザー」の手に渡らないようにする苦肉の策であり、暗躍する転売ヤーに対する牽制としても新しい手法である。

日本車で最も長く続くモデルであるランドクルーザーは、様々な最前線で戦っている。

出所:『自動車の世界史』(中央公論新社)より抜粋
[図表]トヨタ・ランドクルーザー70系 出所:『自動車の世界史』(中央公論新社)より抜粋

鈴木 均
合同会社未来モビリT研究 代表