自分の耳たぶをまじまじと観察したことがある人は少ないでしょう。しかしながら、普段気にしていない耳たぶに健康状態を示すサインが出ていることもあると、米国老年医学の専門医である山田悠史氏はいいます。そこで本記事では、山田氏による著書『健康の大疑問』(マガジンハウス)から一部抜粋して、耳たぶに出る「Frankサイン」について解説します。
耳たぶが知らせてくれる健康状態のサイン
皆さんは、自分の耳たぶを鏡でマジマジと観察した経験はあるでしょうか。イヤリングやピアスをする人であれば、着脱する際に眺めることもあるかもしれません。しかし、健康状態の確認で耳たぶを見る方はほとんどいないでしょう。
実は、耳たぶが健康状態を知らせてくれることもあります。このため、私は診察の時にいつも耳たぶまで観察するようにしています。
耳が教えてくれるサインの中で、ここでご紹介したいのが「Frankサイン」と呼ばれるものです。
このFrankサインは、百聞は一見に如(し)かずだと思いますが、[画像1]で見られているような耳たぶの縦ジワ(斜めジワ?)のことを指します。Frankとは、この兆候を初めて記録した医師の名前に由来します1。
こんなシワ、誰にでもあるのではないかと思われるかもしれませんが、よく見ていただければ、この場所のシワは珍しいことがお分かりいただけると思います。
逆にこのシワを見つけたら、病気のサインである可能性があります。では、どんな病気かといえば、狭心症や心筋梗塞などの心臓の血管の病気、脳梗塞を含む動脈硬化性の疾患です2。
なぜ心臓の病気がある人にこのようなシワができるのかは、はっきりとは分かっていませんが、心臓に病気があると、全身で血管の動脈硬化が進み、耳たぶに向かう血管にも動脈硬化が生じることで血の巡りが悪くなり、耳たぶの中の脂肪組織が萎縮してしまうというメカニズムが指摘されています3。
特に、このシワが深く、長く伸び、両側にある人ほど、心臓の病気が見つかるリスクは高くなると考えられています4。
古典的には、ローマ皇帝ハドリアヌスの石像にもこのFrankサインを見つけることができ、博物館で石像や銅像を見る際の新たな楽しみ方にもなるかもしれません。
また、職業病だと思いますが、私の場合、時々テレビや写真に出ている著名人の耳たぶにFrankサインを見つけてしまい、その方の心臓の状態が心配になってしまうこともあります。ただし、これがあるから「イコール心臓の病気がある」というわけではなく、心臓の病気が全く見つからないこともあります。
万能なサインというわけではないですが、最近健康診断を受けていないという人にこの耳のシワを見つけたら、ぜひ健康診断を勧めていただきたいと思いますし、あるいは最近胸の調子がおかしいという人にこの耳のシワを見つけたら、ぜひ医療機関の受診を勧めてください。隠れた心臓の病気の早期発見につながるかもしれません。
1 ST F. Aural sign of coronary-artery disease. N Engl J Med 1973; 289: 327–8.
2 Evrengül H, Dursunoˆglu D, Kaftan A, et al. Bilateral diagonal earlobe crease and coronary artery disease: a significant association.Dermatology 2004; 209: 271–5.
3 Shoenfeld Y, Mor R, Weinberger A, Avidor I, Pinkhas J. Diagonal ear lobe crease and coronary risk factors. J Am Geriatr Soc 1980; 28:184–7.
4 Rodríguez-López C, Garlito-Díaz H, Madroñero-Mariscal R, et al. Earlobe crease shapes and cardiovascular events. Am J Cardiol 2015;116: 286–93.
山田 悠史
米国老年医学・内科専門医