歳を取るにつれ、膝関節の痛みを訴える人は増えていきます。そうした人のなかには膝関節のサプリメントとして「グルコサミン」「コンドロイチン」を摂取している人もいるでしょう。しかし、これらのサプリは本当に膝の関節痛を改善する効果があるのでしょうか? 本記事では米国老年医学の専門医である山田悠史氏による著書『健康の大疑問』(マガジンハウス)から一部抜粋して、グルコサミン・コンドロイチンの効果について解説します。
グルコサミン・コンドロイチンは変形性膝関節症の痛みを改善する?
変形性膝関節症という病気をご存じでしょうか。膝の慢性的な痛みの原因として最も多い病気です※1。
膝の関節の中には、膝の屈伸運動をスムーズにし、膝にかかる衝撃を受け止められるように、クッションのような役割を果たす軟骨が骨と骨の間に存在しています。
古典的には、時間とともに膝を使い続けることで、この軟骨が弾力性を失い、すり減ることで関節のなめらかな動きが失われ、痛みが出ます。これが変形性膝関節症という病気として知られています。実際には、ここに炎症など他のメカニズムも加わって発症すると考えられています※2。
そうであれば、軟骨の成分となるような栄養素を摂取すれば、軟骨が回復して、膝の痛みなどが改善するのではないかという考え方があります。
そのサプリメントの代表例がグルコサミン、コンドロイチンです。グルコサミンは、軟骨に含まれる成分の原料、コンドロイチンはその成分に水分や弾力を与える働きがあるとされます。これらを摂取することにより、症状が軽くなるのではないかと考えられ、サプリメントとなって広く販売されています。
しかし、本当にそんな効果があるのでしょうか。
膝の関節症に効くという触れ込みだが、実験の結果は…
これまですでに数多くの研究が行われてきました。例えば、症状のある変形性膝関節症に苦しむ1500人以上が参加したGAITと呼ばれる試験※3では、1日あたりグルコサミン1500㎎を飲むグループ、1日あたり1200㎎のコンドロイチンを飲むグループ、これらの両者を飲むグループ、痛みどめのセレコキシブという薬を飲むグループ、偽薬(プラセボ)を飲むグループの※5グループにランダムに分けられました。
その上で、24週間後(およそ半年後)に痛みが減った人数が比較されています。結果として、痛みどめを飲んだグループでは偽薬との間で差が見られましたが、グルコサミンまたはコンドロイチンを飲んだグループ、あるいは両者を飲んだグループでは、偽薬との間に差が見られませんでした。
すなわち、この研究からは、コンドロイチン、グルコサミンおよび両者併用の変形性膝関節症への効果は確認できませんでした。なお、ここでは副作用についても観察されていますが、グルコサミンやコンドロイチンを飲んでいた人たちでプラセボのグループと比較して特別多い副作用というのは見られませんでした。
この試験以外にもいくつもの同様の研究が行われていますが、中には痛みの軽減が報告されたケースもあります。また、これらの研究をメタ分析という手法でまとめると※4、25の研究データから、グルコサミンは膝の痛みを減らしたという結果が示されています。
しかし、よく調べてみると、特定の企業の商品が用いられた研究では痛みを減らす効果が示されていた一方、特定の商品ではない純粋なグルコサミンが用いられた研究では痛みを減らす効果が示されていませんでした。このことから、企業の商品に有利に働くようなバイアスが各研究にかかっていた可能性が疑われています。
現状では、グルコサミンやコンドロイチンが変形性膝関節症を改善させる科学的根拠には乏しいといわざるをえず、各学会レベルでもその摂取は推奨されていません※5。
ただしこれは、個人の使用を止めるものではなく、すでに使っていただいて効果を感じている方はそのまま使用を継続して良いと思いますが、新たに治療を検討する場合には、より科学的根拠のはっきりしている運動療法や、肥満がある場合の減量、塗り薬や貼り薬の痛みどめといった方法を優先的に検討する方が良いかもしれません。
グルコサミンやコンドロイチンは「膝の関節症」に効くワケではない
グルコサミンやコンドロイチンは、理論的には変形性膝関節症を改善させそうですが、実際のところは科学的根拠に乏しく、膝の痛みの改善につながるかどうかは明らかではありません。運動療法や肥満に対する減量など、効果の確立された治療法をまずご検討いただくことが大切です。
※1:Osteoarthritis. National Clinical Guideline Centre 2014; 1–498.
※2:van den Bosch MHJ, van Lent PLEM, van der Kraan PM. Identifying effector molecules, cells, and cytokines of innate immunity in OA.Osteoarthr Cartil 2020; 28: 532–43.
※3:Clegg DO, Reda DJ, Harris CL, et al. Glucosamine, Chondroitin Sulfate, and the Two in Combination for Painful Knee Osteoarthritis. NEngl J Med 2006; 354: 795–808.
※4:Eriksen P, Bartels EM, Altman RD, Bliddal H, Juhl C, Christensen R. Risk of bias and brand explain the observed inconsistency in trials onglucosamine for symptomatic relief of osteoarthritis: a meta-analysis of placebo-controlled trials. Arthritis Care Res (Hoboken) 2014; 66:1844–55.
※5:Bannuru RR, Osani MC, Vaysbrot EE, et al. OARSI guidelines for the non-surgical management of knee, hip, and polyarticularosteoarthritis. Osteoarthr Cartil 2019; 27: 1578–89.
山田 悠史
米国老年医学・内科専門医