誰もが羨む「勝ち組」。たとえば、大企業で働き、出世街道まっしぐら。部長職にまで上りつめた会社員は、誰もが「勝ち組」と認めるところ。だからといって「老後も安泰」とはいかないようです。みていきましょう。
【老後貧乏】月収74万円・52歳の勝ち組サラリーマン…60歳で定年退職後に知る衝撃の年金額「なんとかなるさ」の余裕が一転「エリート老後崩壊」の理由
「年金ってこんなに少ないの⁉ 今まで通りの生活なんてできないよ…」
・ゆめこさん(以下、ゆ)……大正時代からタイムスリップしてきた26歳女性。なぜか、現代社会にめちゃくちゃ詳しい。
・わい(以下、わ)……ゆめこさんの白い飼い犬。お菓子好き。ミーハー。
・おじさん(以下、お)……難しい単語や複雑な制度を解説してくれる物知りな優しいおじさん。
・神崎一(以下、主)……今回の主人公。大企業の部長職を務める52歳の勝ち組だが……。
主:俺の名前は神崎一。一流大学を出て、誰もが知る大企業に入り、ガンガン出世街道を走ってきた。52歳になる今は部長として社内でも安定した立場にあるし、月収は74万円と誰もが認めるエリートだ。
ゆ:52歳ということはそろそろ定年退職を考える時期ですね。一さんは本当に老後の心配がまったくないのでしょうか?
主:老後の心配? そんなのないよ。
何しろ俺は大企業のエリートサラリーマン。このまま定年退職まで勤めれば生涯年収は約3億円。これだけ稼いで、年金のための保険料もしっかり納めてきたんだ。実際に貰える金額が少ないはずないだろ!
わ:ちょっと鼻につくけど、確かに、一さんのような高所得サラリーマンは、きっと年金もたっぷりもらえそうだよね!
ゆ:政府調査によると従業員1,000人以上の企業の部長職(平均年齢52歳)の平均給与(所定内給与)は月74万円です。年収は1,200万円にものぼります。
お:厚生年金保険では、年金のための保険料を納めている国民の給与収入(基本給のほか残業手当や通勤手当などを含めた税引き前の給与)を一定の幅で区分した、報酬月額というのがあります。これは、32等級のランクに区分されています。
ゆ:一さんの給与収入は32等級中、32等級です。つまり、最高ランクに区分されます。
わ:おお~まさに年金受給額のトップ層だね!
主:そうだろう! なんたって俺はエリートだからな! はっはっはっ。
ゆ:ですが一さん、実際の年金額をちゃんと計算してみたことはありますか?
主:え? いや、そういうシミュレーションは、年金額が心配な人がするものだろ…。年金以外にも俺には貯金だってあるし…。とはいえ、ちょっと不安になってきたな。ははは…。試しに計算してみよう。ええっとどれどれ…、60歳で定年退職して、65歳から年金生活に入るわけだから…
お:計算すると、一さんの年金は老齢基礎年金と合わせて月20万円です。
ゆ:年金の平均額は月14万円です。一さんは平均に比べて月6万円、年72万円も平均額が多いことになります。
わ:なんだ、全然心配いらないね!
主:いやいや!ちょっと待ってくれよ…。なんだ、その金額! 全然足りないぞ!
わ:ええ!? 月20万円で足りないの?
主:今まで必死に働いて稼いできたのに、そんなに年金が少ないなんて聞いてないぞ…
ゆ:一さんは大企業の部長ですからね。今まで月収70万円以上の生活をしていたのに急に20万円で暮らすとなると難しいのかもしれません。
主:そうだ、いきなり収入が3分の1になるなんて、誰だって驚くだろ!
わ:い、言われてみれば…生活水準を下げるのって、難しいよね
ゆ:ですが、現役時代に比べて収入が3分の1になるというのはごく一般的なことです。
定年退職してから愕然としても遅いのです。皆さん、あらかじめシミュレーションしておくことが重要です。
主:そ、そうだったのか…
ゆ:調査によると、高齢夫婦の老後の最低日常生活費は月23万円、ゆとりある老後生活費は月38万円が欲しいところといわれています。
主:となると、俺の場合は年金受給後も毎月18万円くらい貯金から切り崩すことになるのか…
お:日本人の平均寿命は2021年で男性が81.5歳、女性が87.6歳です。
ゆ:つまり、年金受給が始まってから男性は16年、女性は22年は老後生活をつづけることになりますね。
わ:それにさっきの生活費がかかるんだよね?
ゆ:一さんの世帯で考えると、こちらの計算式から1,000万円ほどの貯蓄があれば安心できるといえるでしょう。(37.9万円×12か月×22年)
主:そ、それくらいなら今の貯蓄でなんとかなるが…。
とはいえ物価高の激しい現代だ。さらに余裕があった方が安心できるよな。ということで俺は少し、自分の消費や支出について考え直すことにしてみた。
主:うーん、やっぱり無駄遣いが多いな…。
若い頃にハマったゴルフも40代の後半からは体がきつくてほとんど行ってないくせに、いつか行くかも…とまだ年会費を支払いつづけている状態だ。それに見栄で高級な腕時計や革靴を年にいくつも買うのも、引退間近の俺にはもう必要ないはずだ。
いい物は息子たちに譲るとして、必要ないものは売却した方がいいかもな…。
それにこんなにしょっちゅう外食に行ってたのか…飲み会の頻度は減らした方が体にもいいな。身体を壊したら、日常生活がつらいだけでなく、医療費もかかってしまうからな。」
改めて自分の環境を見直してみると、収入の高さに安心しきって無駄な出費を重ねていたことがよくわかった。若い頃には見栄や付き合いもそれなりに楽しいが、今の俺にはもう自分を大きく見せる必要なんてない。老後に妻と仲良く、安心して暮らすために俺に必要なのは高価なブランド品や外食じゃなかったんだ。
俺が本当に送りたい老後って何だろう…? 真剣に考えたことなかったな…
数ヵ月後
主:俺は家庭菜園を始めた。妻に老後はどんな生活を送りたいか? 正直、俺に望んでいることはあるか? など思い切って話し合った結果、「あなたにはずっと元気でいてほしい。あなたに望んでいるのはそれだけ。」と言われた。
妻はどうやら、近年俺の健康診断の結果がよくないことを案じて、家で食べる野菜を有機野菜にしてくれていたらしい。だが、有機野菜というものは非常に割高だと言っていた。
そこで俺は、子どもの頃、夏休みに祖父の実家できゅうりの収穫を手伝うのが楽しみだったことを思い出し、自宅の庭で無農薬野菜の栽培を始めた。
ピーマンに茄子に人参…まずは初心者向けの野菜から始めるか!
いざ始めてみると思いのほか没頭できて楽しい。料理好きな妻との共通の話題にもなって、なんだか以前より会話が増えた気がする。
ピーマンと茄子が収穫したら、夏野菜カレーにしよう。うまそうなレシピ、YouTubeで探してみるか!
俺はこれまで仕事人間だっただけに、定年後に燃え尽き症候群にならないか心配だったのが嘘のようだ。今では定年が待ち遠しい。
わ:一さん、新しい将来設計に向けて、動き始めてるね!
ゆ:もともと行動力のある人だからこそ、ここまで頑張ってこれたのかもしれませんね。奥さんとの楽しい老後のためにも一さんが踏み出した第一歩を応援したいですね。