人生100年時代と言われる現代、多くの人にとって「介護」は他人事では済まされない問題なのではないでしょうか。そして、「親孝行のつもりで介護をすると、親も自分もだんだんつらくなる」といった状況に陥ってしまうようなケースが数多く見受けられます。 本稿では、川内 潤氏の著書『わたしたちの親不孝介護 「親孝行の呪い」から自由になろう』(日経BP)より一部を抜粋し、Mさん家庭の実例をインタビュー形式で紹介しながら、母娘間における適度な距離に基づく「親不孝介護」について詳しく解説します。
母親の「娘」と「息子」への意識の差
Mさん:サンプル数は少ないけれど、自分の周りの女性は結構みんな同じことを言っていて。ほら、通販で「今なら2個で1個分のお値段」ってあるじゃないですか。母はそれで2個買って、必ず1個がうちにやって来る。この間もずわいがにが箱で来ました。いらないと言っても押し付けられる(笑)。
編集Y:羨ましい気もしますが、えーと、それは、息子にはあげないと思います?
Mさん:あげないと思います。だって、好きでいてもらいたいから。息子には「好きでいてもらいたいから、愛情の押し付けはいたしません」というぎりぎりの配慮が働くんじゃないかと。
編集Y:へー。
Mさん:母と娘は、たぶん。お互いに「面倒くさい」と思っているんだけれども、どうしても離れられない。愛もあるんだけど、そこに支配も混じっている、みたいな。うまく言えなくてごめんなさい。何でこんな話になっちゃったんですかね(笑)。
川内:いや、結構大事なところだと思います。介護は夫も妻も、そして親も含めた家族のマネジメントじゃないですか。それぞれのメンバーが物事をどう感じているのかを理解できるなら、絶対そのほうがいい。
Mさん:じゃ、調子に乗って続けますね(笑)。(母親に)いつまでたっても支配されている感じ、というのは、中高時代の友達と話していても、ほとんどみんな一致して言っているので、それは似たような感覚なんじゃないかなと思います。しかも、私は名門女子高といわれるところの出身なんですけど。
編集Y:Mさんのこういう無駄な遠慮のない物言い、気持ちがいいですね(笑)。
Mさん:え?(笑)。なので世間一般からいえばわりと「成功した娘」なんですよね。だから母親が「成功した娘を育てた私のやり方は間違ってなかった」みたいな達成感を持っている。
川内:なるほど。自分の支配は正しかった、と、さらにパワーアップしてしまって。
Mさん:それで「私の言うことを聞いていればいいのよ」的な思いをずっと。
編集Y:自信につながっちゃうんですね、Mさんの成功が。
Mさん:いやそれでも、「安定した大企業に入らなかった」ということで、いまだに私、母親に文句を言われているんですけれども(笑)。
編集Y:せっかく私がちゃんと整えてあげたのに、大企業に入れるように育てたのに、と。
Mさん:1カ月ぐらい前にも「この先、ちゃんとした企業に入る気はないの?」と言われて。
川内:えっ。直近の話ですか?