老後資金の大きな要素を占める「退職金」。しかし、「残念な使い方をしている人が少なくない」と、ファイナンシャルプランナーである長尾義弘氏は言います。長尾氏の著書『運用はいっさい無し! 60歳貯蓄ゼロでも間に合う 老後資金のつくり方』(徳間書店)より、退職金の賢い使い方について、詳しく見ていきましょう。
勤続35年以上の大卒サラリーマンなら〈平均1,822万円〉が手元に入るが…退職金の「一時金での受け取り」を安易に選択してはいけない“恐ろしいワケ”【FPが解説】
退職金が出るとは限らない!
老後資金において、退職金は大きな要素です。住宅ローンの返済に、リフォームに、旅行に……退職金を当て込んで、さまざまな計画を立てているでしょう。
ところで、退職金は出て当然だと思っていませんか。じつは、すべての会社に退職金制度が存在するわけではありません。「退職金を支払うべし」と法律で決まってはいないので、退職金のない会社もあります。退職金制度のある会社は、74.9%です。そのうち1,000人以上の企業では90.1%、30~99人の企業では70.1%となっています(厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」)。
では、退職金の平均はどのくらいなのでしょうか。前述の調査によると、勤続35年以上で退職一時金のみの場合は、大卒・大学院卒が1,822万円、高卒(管理・事務・技術職)が1,670万円、高卒(現場職)が1,321万円です。
中小企業については、東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年度版)」を見てみましょう。大卒は1,091.8万円、高専・短大卒は983.2万円、高卒は994.0万円となっています。
実際の退職金額は、勤続年数やそのときの給与といった条件によって違います。一度、人事部などで確認しておいたほうが、老後の資金計画に役立ちます。
また、退職前には、会社から退職金や再雇用に関する説明があると思います。ここで大きな問題に直面します。それは退職金の受け取り方です。
退職金の受け取り方法を、一時金、年金、一時金と年金の併用などから選べる場合があります。会社によっては、一時金と年金の割合も変更できます。この受け取り方法で、得をしたり損をしたりすることがあるのです。
一般的には、一時金で受け取ったほうが手取り金額は多くなります。「退職所得控除」があるため、税金面で優遇されるからです。お金の専門家に相談しても、同じように「一時金が得になる」という答えが返ってくると思います。
一方、年金で受け取ると、そのぶんの利息もつきますが、雑所得として所得税がかかってきます。また、所得が増えるので、社会保険料が上がります。その結果、一時金に比べて手取り金額が少ないケースがあります。
しかし、私は一時金で受け取る方法が必ずしもいいとは思いません。
一時金の場合はつい気が大きくなり、「あれれ? 何に使ったんだっけ?」という感じに、あまり計画性を持って使われないことが多いからです。