崔子玉座右銘(重要文化財)

座右銘というのは、絶えず自分のそばに置いて、繰り返し確認したくなる言葉を表します。

崔子玉は、後漢の詩人・崔瑳(さいえん)のことで、彼が詠んだ座右銘を空海が書いたと伝えられています。五言二十句の100文字からなりますが、現在、空海が書いたものとして確認できるのはそのうちの44文字(本記事では太字で表記している漢字)となります。

元々の座右銘は以下の五言二十句から構成されています。

無道人之短 人の短を道ふこと無かれ

無説己之長 己の長を説くこと無かれ

施人慎勿念 人に施しては慎みて念うこと勿れ

受施慎勿忘 施しを受けては慎みて忘るること勿れ

世誉不足慕 世の誉は慕ふに足らず

唯仁為紀綱 唯だ仁のみ紀綱と為せ

隠心而後動 心に隠りて後動く

謗議庸何傷 謗議庸何ぞ傷まむ

無使名過実 名をして実に過ぎしむること無かれ

守愚聖所蔵 愚を守るは聖の蔵する所なり

在浬貴不淄 浬に在るも淄まらざるを貴ぶ

曖曖内含光 曖曖として内に光を含む

柔弱生之徒 柔弱は生の徒なり

氏誠剛彊 老氏は剛強を誡しむ

行行鄙夫志 行行たり鄙夫の志

悠悠故難量 悠悠として故より量り難し

慎言節飲食 言を慎み飲食を節す

知足勝不詳 足ることを知りて不祥に勝つ

行之萄有恒 之を行いて萄に恒有らば

久々自芬芳 久久にして自ずから芬芳あらん

崔子玉座右銘要約

人の短所をいわないように。自分の長所もいわないように。

人に何かを与えたことは気に掛けず、逆に与えられたことは忘れないように。

世間からの評判を追い求めずに、仁を基準にすること。

しっかり考えてから行動すれば、誹謗中傷は気にすることなどない。

評判が実力を上まわらないようにすること。愚直であることは聖人が良いことであるといっているのだから。

悪い環境でも、それに染まらないように。自分の内側は明るさを保つこと。

柔軟に生きることが処世の極意。剛強なことは老子が誡めた。

強情な生き方は、救い難いものになる。

言葉遣いに注意し飲食を節制し、現状を十分とすれば、災難を乗り越えられる。

このようなことに気を付けていれば、人徳が花の香りのように匂い出すだろう。

[図表6]著者臨書作品

とても素敵な言葉です。

この崔子玉座右銘から「座右銘」という言葉が広まったのですが、空海も側に置きながら自分と向き合っていたのかもしれません。

私はこの空海の座右銘を大学の卒業制作で縦2.75メートル横11メートルの作品として制作しました。巨大な作品にしても、空海の作品の迫力が色褪せないことに驚きを隠せませんでした。

私にとっても思い入れの強い作品です。