退職金が振り込まれた途端はじまる、銀行員からの「投資信託」勧誘。その必死さから「投資信託って、怪しいんじゃないの?」と疑っている人もいるかもしれません。しかし、じつは「資産を比較的安全に保管できる方法だともいえる」と、経済評論家の山崎元氏はいいます。投資信託の仕組みとメリットをみていきましょう。※山崎元氏は2024年1月1日に逝去されました。衷心より哀悼の誠を申し上げます。
投資信託の“悪いイメージ”は銀行のせい!?…じつは「資産の安全な保管方法」といえる理由
投資信託は「分散投資」と「海外への投資」が可能
山崎先生:あるよ。じゃあ、投資信託のメリットを順番に説明しようか。
まず、最大のメリットは、分散して投資できることだね。例えばソフトバンク1社の株だけを買うと、ソフトバンクの株が大きく下落したときに、思いっきり影響を受ける。
でも、投資信託は「詰め合わせ」だから、袋の中にはトヨタもセブンイレブンもパナソニックもみずほ銀行も入っている。どれかが下がっても、全体でみたら影響が減らせるというのが分散投資の基本的な考え方。「卵は同じカゴに盛るな」っていう使い古されたことわざがある(図表2)。
大橋:それ聞いたことあります。
山崎先生:分散投資をしておけば、大きく増やす可能性も減るけど、大きく減らす可能性が減るから、君みたいに安全に運用したい人に合っている。でも、これを自分でやると大変でしょう。何社も株を買わなきゃいけないから、お金も労力もかかる。それを、投資信託を運営している会社が、みんなからお金を集めてまとめてやってくれる。
大橋:なんだか、少しいいシステムに聞こえてきました。
山崎先生:あと、投資信託のいいところは気軽に海外にも投資できるってこと。
大橋:海外ですか?
山崎先生:日本の株式市場なんて世界の株式市場の1割にも満たない。世界にはアメリカという世界最大の投資先もあるし、インドやブラジルにも投資先はある。でも、海外の株式に投資するには、すごく手間が掛かる。しかし、これも運用会社がまとめてやってくれるの。
大橋:だまされる可能性ってないんですか。投資信託の中身を入れ替えて、本当は増えてるのに、「減りました」と報告されるなんてことは……。
山崎先生:それはまずない。運用の内容は顧客に詳しく開示しなければいけないと法律で決まっているし、運用されている資産自体は、銀行や証券会社など販売しているところでも、運用を指示する運用会社でもなくて、信託銀行という別の場所で保管されているから、ごまかしはやりにくい(図表3)。
資産がゼロになるリスクはないの?
大橋:じゃあ投資信託を買って、そのあとに証券会社がつぶれたりして、「あなたの投資信託はなくなりました」「信じて託したのに……」ってことはないんですか?
山崎先生:それもない。投資信託は買ったところ(銀行や証券会社)がつぶれても、さっき話したように資産は信託銀行で管理されているから大丈夫なんだ。実際、1997年に山一證券が自主廃業を発表して、その時、わたしは山一證券に勤務していたんだけど、顧客から預かっていた資産は無事だったよ。
大橋:じゃあ、その信託銀行っていうところが潰れる可能性はないんですか。
山崎先生:もちろんある。でも、客から集めた資産は、会社のお金と別で管理するよう法律で決められているから、信託銀行が潰れたとしても不正がなければ大丈夫だよ。投資信託っていうのは資産を比較的安全に保管できる方法だともいえる。
まとめ
・投資信託はプロに運用してもらえる株の詰め合わせ。
・分散投資ができて、海外にも投資できる。
・投資した資金は信託銀行で管理されていて比較的安全である。
山崎 元
経済評論家
大橋 弘祐
作家/編集者