日本の「街」は高齢者を拒んでいる!?

たしかに高齢者、とくに75歳以上の事故は多いのですが、それでも16~24歳のほうがずっと多いのです。死亡事故に関しても75歳以上と16~24歳は同じくらいです。しかも高齢者の事故は自爆が多く、人を撥ねている割合はそれまでの世代の半分でしかありません。

つまり、高齢者が免許を持ち続けても自分が危ないだけで、加害者になってしまう確率は、他の年代よりむしろ低い。ところが高齢者が人身事故を起こした時だけ全国ニュースで大々的に取り上げられ、危険なイメージが広がってしまいます。

実際には高齢者のほとんどが安全運転です。スピードは控えるし、安全確認も丁寧です。無理な追い越しやあおり運転などもしません。夜間に運転することもないので、交通量の少ない地方の場合は、人身事故の可能性はほとんどありません。慣れた道ばかりですから迷ってパニックを起こすこともなく、買い物や病院に行くぐらいですから高速道路も使いません。

車の安全性能を高めたり、運転できるエリアを限定することで、高齢になっても車を乗りまわして日常生活の質を落とさないようにすることは十分に可能なはずです。

都会に車は必要ない?

都会はどうでしょうか?

電車やバスなどの公共交通に恵まれている都会なら車なしでも暮らせそうですが、現実には違います。電車やバスに乗ってターミナル駅に着いたとしても、そこから先が動けないからです。ホームに降りても、地下街やデパートまでエスカレーターはあまりなくて、階段の昇り降りを繰り返さなければいけません。

そして、ターミナル駅の周囲は歩道橋が張り巡らされています。歩道橋にエスカレーターはほとんど設置されていません。

つまり、高齢者は交差点を渡ることすら難しいのです。歩道橋は信号待ちをしなくて済み、交通事故に遭うこともないでしょうが、高齢者にとっては外出を拒む要塞(ようさい)のようなものなのです。

和田 秀樹
国際医療福祉大学/ヒデキ・ワダ・インスティテュート/一橋大学国際公共政策大学院/川崎幸病院精神科
教授/代表/特任教授/顧問