中堅電機メーカーの開発部長だった野口さん(仮名)は、退職金で住宅ローンを完済したところ貯蓄がゼロになってしまいました。年金の受給方法には「繰上げ受給」「繰下げ受給」の2パターンがありますが、野口さんが老後破産を避けるためには、どちらを選ぶのが正解なのでしょうか。ファイナンシャルプランナーである長尾義弘氏の著書『運用はいっさい無し! 60歳貯蓄ゼロでも間に合う 老後資金のつくり方』(徳間書店)より、詳しく見ていきましょう。
定年早々、退職金を使い果たした〈貯金0円〉の60歳男性…“老後破産”を回避するために選ぶべき「年金の受給方法」は〈繰上げ〉か〈繰下げ〉か【FPが解説】
「繰上げ受給」「繰下げ受給」それぞれのデメリットとは?
年金をいつから受給するかは、それぞれの事情によって異なります。人生100年時代に向いている方法は繰下げ受給です。
逆に、早く年金を受け取ることができる繰上げ受給は、デメリットが大きいです。
繰上げ受給は一度選択すると、途中で変更がききません。また、障害年金を受け取れなくなります。遺族年金を受け取っている人は併用ができません。
どうしても生活に困っているのでない限り、できるだけ避けたいものです。
もっとも、繰下げ受給にもデメリットがないわけではありません。いちばんのデメリットは、早死にすると損をすること。とはいえ、死んでしまえばお金は必要ないので、デメリットとは言えないかもしれません。ただ、年下の配偶者がいた場合は、加給年金を受け取れません。加給年金とは、厚生年金の遺族手当のようなものです。加給年金は金額が大きいため、損になることもあります。
また、受給額が増えたぶん、税金や社会保険料が多くなってしまいます。
70歳まで繰下げると受給額は42%アップしますが、実際の手取り金額は35~32%くらいになるかもしれません(税金や社会保険料は、それぞれ家族関係や家計の状態で異なります)。すると、損益分岐点も1~2年、後ろにズレます。
「税金や社会保険料まで上がるなら損だ」という人もいますが、それは間違い。もともとの目的は、年金の受給額を増やすことです。増えた金額以上に、税金や社会保険料が上がることはありません。ある意味、これは仕方のない話です。
「税金や社会保険料が増えるから、給料を上げないでください」なんて言う会社員はいませんよね。引かれる損より、増えた得に目を向けてください。
繰下げ受給は、基礎年金か厚生年金のどちらか一方を選ぶことも、両方を繰下げることもできます。さらに、繰上げ受給とは違い、「70歳まで繰下げるつもりだったけれど、お金が必要になったので68歳からもらおう」といった具合に、変更も可能です。このように自由度の高いしくみになっています。
長尾 義弘
ファイナンシャルプランナー