京都を訪れるとき、ゆっくりと街並みを楽しみたいと思う人もいるのではないでしょうか? 銀行や郵便局、学校など、京都独自の特徴をもった近代建築を見ながら、お散歩できるルートがあります。著書『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版 』(エクスナレッジ)より、円満字洋介氏が解説します。
京都人は赤レンガ好き⁉京都だけにある建築物
京町屋大工の技術力
三条通りを西へすぐの旧家邊徳時計店にはアーチが3つある。しかし、それを受ける柱がない。宙に浮いたアーチなのだ。レンガや石材をふんだんに使ったファサードでありながら、それは両端の壁だけが支持している。おそらく京町家と同じように、軒を支えるため「てこの原理」を応用した通し腕木を仕込んでいると思われる。京町家大工の高い技術がこの特徴的なファサードを支えているのだ。ちなみに竣工当初は時計塔が載っていた。
レンガ石貼りのロマネスク風
三条通りと富小路通り角のSACRAビルは、竣工当時の姿をうまく残しながらテナントして活用している。外観は幾何学的で装飾分解の進んだセセッション様式である。正面上部の銅板製の社章は、AとRを図案化したものだ。その両脇にトーチがある。トーチとは松明のことで、その先に火炎も作られている。こうした屋根回りの銅細工は壊れて失われることが多いが、ここではきれいに残っている。当初の丁寧な板金仕事と、その後のメンテナンスの良さを褒めるべきだろう。内部は階段回りが見事だ。とくに、階段親柱の上部の山食パンに似た形が愛らしい。
京都は日銀も赤かった
西に進むと、武田や片岡安の師である辰野金吾設計の旧日本銀行京都支店だ。赤レンガに白ラインは辰野式と呼ばれ、東京駅もそうなっている。不思議なのは他の都市の日銀はほとんど石貼りなのに、京都は赤レンガであることだ。通りが狭く、引きがないので、重厚なデザインは無理があり、中世風の赤レンガ建築となったのだろう。それとは別に、そもそも京都人は赤レンガが大好きなのかも知れない。国立博物館も京都だけ赤いからね。
ここが京都の中心だった
旧日本銀行京都支店の並び、同じく赤レンガの中京郵便局は、壁面保存の最初期の事例だ。郵政の建築部局の建築家は、山田守のように建築界をリードしてきたが、保存の面でも一歩先を進んでいるのだ。
蔦の絡まるドイツ風洋館
東洞院通りを南へ、六角通りを東へ、さらに麩屋町通りを南へ向かうと現れる革島外科医院は、とても大事にお使いになっているため、これほど大きな洋館でありながら保存状態が良い。ドイツ民家風なのは初代院長がドイツ留学帰りだったからだそうだ。あめりか屋と一緒になって楽しみながら作った建築である。地域医療の拠点である医院建築は市民に親しまれているものが多い。作る側も最初から街路風景に貢献することを意識しているからだろう。明治以降、洋館が町並みに受け入れられていく過程で、医院建築の果たした役割は大きい。
遊び心あふれる学校建築
ルート最後、高瀬川沿いの立誠ガーデンヒューリック京都は、校舎の一部を保存したうえで増築されてホテルやショップが入っている。図書室やイベント広場も備えており、地域活動の拠点ともなっている。畳敷きの作法室が残されており、地域活動やイベントなどに活用されている。外観はバルコニーの植物模様に力がある。アプローチの橋の欄間に波型の鉄棒を仕込んでいるのもおもしろい。数世代にわたって使われた学校建築は、地域住民の記憶継承の貴重な要なので、まちづくり拠点にふさわしい。
円満字 洋介
建築家