アランの言説は、日常に即したものが多く親しみやすいことから、現代でも多くの人に愛されています。アランが提唱した「幸福論」とはどのようなものだったのでしょうか? 著書『超要約 哲学書100冊から世界が見える!』(三笠書房)より、白取春彦氏が解説します。
アランは「哲学者」ではなかった?
厳密にいうと、アランは哲学者というよりも、フランスのモラリストに分類されます。ところで、モラリストというのはいわゆる道徳の啓蒙家のような人を指してはいません。むしろモラリストたちはしばしば、非道徳的な意見、あるいは現今の価値や文化を疑いながら相対的にとらえたうえでの意見を述べていることが多いのです。
というのも、モラルの原意とされているラテン語のmosは「習慣、慣習、習性」といった広い意味を持っていて、したがってモラリストとは「人間の慣習や習性を観察し、社会風俗や時代の人々の慣行や考え方についての小論を書く人」ということになるからです。よってモラリストには、有名どころでは、セネカ、パスカル、モンテーニュ、ヴォルテール、ラ・ロシュフコー、ゲーテ、ショーペンハウアー、ニーチェ、ジッド、ワイルド、カミュまでもが含まれることになります。
モラリストは誰もが読んで理解できる文章を書くことによって、学術的な論考を書く哲学者よりも多くの読者を持つことになります。しかも、教養としてなんらかの哲学を踏まえており、人々の考え方に直接的な影響をおよぼすことが多くなっています。
賢人の つぶやき 幸福になろうと欲しなければ絶対に幸福にはなれないのは明白だ
白取 春彦
作家/翻訳家