2001年に掲げた厚労省の目標、未だ達成できず
これから診療所を開院される先生方は、導入が必要となるさまざまな機器の選定をすることになるでしょう。勤務医時代に慣れ親しんだシステムから脱却し、最先端の機器・システムの導入を行うケースも多いと思います。なかでもカルテの管理については、どの先生も「電子カルテ」一択ではないでしょうか。
従来、患者様の診療の経過は「紙カルテ」に記載して管理していましたが、これらを電子情報としてデータベース化し、記録・管理するのが「電子カルテ」です。診療所の運営も近年のIT化、DX化の流れには逆らえず、アナログな情報管理の手法は淘汰されていくでしょう。
医療現場への電子カルテ導入は、2001年12月、厚生労働省が策定した「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」での言及がひとつの転換点となっています。「情報化が国医療の将来に大きな影響を与えるものである以上、これを国として戦略的に進めていくことが極めて重要」との観点から、「2006年度までに全国の400床以上の病院の6割以上に普及。全診療所の6割以上に普及」を目指すことになりました。
それから20年以上の時間が経過しましたが、電子カルテの普及は、当時の厚生労働省の目標値にはまだ達していないのが現状です。医療現場における肌感覚としては、多くの診療所にも電子カルテが普及した印象がありますが、厚生労働省の「医療施設動向調査」によると、一般診療所における電子カルテの普及率は、2020年時点で49.9%に過ぎません。
2020年時点における一般病院の電子カルテ普及率を病床規模別でみると、以下のようになっています。
400床以上……91.2%
200~399床……74.8%
200床未満……48.8%※1
※1 出典:厚生労働省「医療施設調査」
(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000938782.pdf)
病床規模が大きい病院は電子カルテの普及率がかなり高く、400床以上ともなれば9割を超えている一方で、病床規模が小さい病院や、一般診療所の普及率は依然として低いままなのです。
電子カルテの導入、いよいよ「待ったなし」となった背景
しかし、電子カルテの導入については、すべての病院、ならびに診療所において、もはや待ったなしの状況となっています。
2023年7月、厚生労働省医政局が取りまとめた「医療DXの推進に関する工程表について(報告)」で、「遅くとも2030年には、概ねすべての医療機関において、必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指す」ことが盛り込まれたからです。
そのロードマップは、2026年までの普及率を80%としたうえで、2030年には100%を目指すというものですが、一般診療所における普及率が49.9%という現状を見ると、あと7年程度で100%を達成するのは、なかなかむずかしい状況にあるといえます。
電子カルテの導入が進まない、3つの理由
そうはいっても、手書きのカルテは管理が面倒なうえ、広い保管スペースも準備せねばならず、極めて大変です。デジタルデータであれば、検索も容易で、なにより場所を取りません。それだけでも十分導入の動機になり得ると思われますが、遅々として進みません。
理由は3つ考えらえます。
ひとつ目は、電子カルテの導入に対してインセンティブがないことです。たとえば、令和5年4月から保険医療機関・薬局に導入を原則として義務付けることとなった「オンライン資格確認」の場合は、診療報酬の点数が加算されます。しかし、電子カルテの導入にはそれがなく、しかも導入にあたっては初期費用が必要です。
2つ目は、開業医の高齢化です。日本にある一般診療所の数は10万件超※2と、コンビニエンスストアのおよそ2倍もありますが、開業時のドクターの平均年齢は42歳※3、開業医の平均年齢は60歳※4と言われています。
※2 出典:厚生労働省「医療施設調査」
(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/22/dl/02sisetu04.pdf)
※3 出典:日本医師会「開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査」
(https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20090930_21.pdf)
※4 出典:厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」
(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/20/dl/R02_kekka-1.pdf)
高齢化が進んでいるのは医師だけではありません。診療所の開業時からドクターを支えてきたスタッフたちもまた同様です。
生まれたときからデジタルツールに囲まれている若い世代なら、新しい機器の導入にそれほど抵抗を感じないかもしれませんが、いまの50代、60代のなかには、デジタル機器に苦手意識を強く持っている人も少なくありません。
これまで長きにわたって紙のカルテを使用していた診療所からすれば、慣れ親しんだ紙ベースの業務から電子カルテに移行することで、業務に支障や混乱を来す恐れもあります。
3つ目は、機器の選択の難しさです。現状では、電子カルテのベンダー数は数十社を超えているうえ、システムも標準化されておらず、各社独自の仕様になっています。電子カルテの利用者である病院、診療所の側からすれば、なにを基準にどれを選べばいいのか、さっぱり見当がつかない状況なのです。
人手不足のなかで医療現場を回すには、あらゆるところで「DX化」が必須に
このように、導入へのさまざまなハードルがある一方で、医療現場はDX化の流れには逆らえません。
近年では人手不足の問題がクローズアップされていますが、医療現場も例外ではありません。2024年からは医師の働き方改革も始まり、生産性向上の向上は急務であり、医療現場のあらゆる部分でも、作業の効率化を図るため、デジタル化・DX化が加速しています。その流れのなか、患者様の大切な情報を管理するカルテも「電子化」が進んでいくことは、もはや必然だといえるでしょう。
電子カルテを導入すれば、患者様のデータ参照や共有も簡単になり、カルテの記録作業をはじめとして、さまざまな部分が効率化されるため、医療現場におけるスタッフの人員不足問題に対応できます。また、カルテの記入のサポート機能などを活用することで、記入ミスなどのヒューマンエラーも発生しにくくなるというメリットがあります。
記事『電子カルテのシステム、安易なセレクトでは後悔も…導入時に検討すべき「7つの視点」』では、電子カルテの導入のヒントについてくわしく見ていきます。
土屋 哲史
ウィーメックス株式会社 ヘルスケアIT事業部