介護が必要になる原因の背景には「フレイル」というものが関係しているといいます。また、体型に変化がなくとも筋肉量は減少している場合もあるといいます。内科医の奥田昌子氏の著書『「日本人の体質」研究でわかった長寿の習慣』(青春出版社)より、「寝たきり」におちいる原因をみていきましょう。
「見えない脂肪」が筋力を奪う!?
筋肉はあまり使わずにいると、20代をピークとして30歳を過ぎるころから減っていき、太ももの筋肉は1年で1パーセントずつ小さくなるというデータがあります。わずかずつ低下するので気づきにくく、「あれ?」と思っても、「年のせいだからしかたないな」と考え直し、あきらめてしまう人が大半です。でも、よほどの力仕事は別として、ちょっとしたものを運ぶのにも若い人に頼んだり、少しの距離も車を使ったりしていると筋力はどんどん落ちていきます。
加齢による筋力の低下と筋肉量の減少を合わせて、専門用語で「サルコペニア」と呼んでいます。サルコは筋肉、ペニアは失われるという意味で、最近はテレビなどの解説でも「サルコペニア」を耳にすることがありますが、ここではわかりやすさを優先させて「筋力低下」と書いています。
ついでに説明しておくと、ロコモティブシンドローム、略して「ロコモ」という用語もありますね。ロコモは具体的には筋力とバランス能力が低下した状態のことなので、フレイルの一部と考えられます。
さて、先ほど、栄養を十分摂取できなくなって筋力の低下がさらに進むと書きましたが、やせていなければ大丈夫とはなりません。筋力が落ちた高齢者は運動量が少なくなりがちで、危険な内臓脂肪がつきやすく、健康寿命にとって大きな打撃となります。
筋肉が減って脂肪に置き換わると外からは太ったように見えないため、本人も周囲の人も気づかないうちに筋力が大きくそこなわれることもあります。また、内臓脂肪は骨の弱さとも関連しています。内臓脂肪が多い女性と皮下脂肪が多い女性をくらべたところ、年齢が同じでも、内臓脂肪が多い人は骨の強さが半分しかなかったそうです。
人間の骨の量は30代でピークとなり、年齢を重ねるにつれて減少します。それでも、[図表3]からわかるように、男性が80代まで骨粗鬆症になる危険が低いのに対し、女性はもともと骨の量が少ないうえに、50歳前後の閉経を境に骨が急に弱くなります。骨からカルシウムが逃げ出すのを防いでくれる女性ホルモンが閉経によって減少するからです。60代になると早くも3人に1人が、80代では3人に2人が骨粗鬆症になり、そこに筋力低下が重なると、ちょっとした転倒で骨折し、寝たきりにつながります。
奥田 昌子
医師