〈マンション節税〉を考える際に、見越しておくべきこと

潤一郎:そういえば先程、マンションやアパートを建てた土地は、更地よりも評価が低くなり、節税になるというお話もありましたよね。

相続ソムリエ:はい。更地にマンションを建てると、土地は「貸家建付地」として評価されます。更地は何にでも自由に利用できる使い勝手のいい状態ですから、評価が高くなってしまうんです。ところが、マンションを建てて第三者に貸すことになれば、住民の権利が発生します。土地自体の使い勝手も悪くなり、使用が制限され、その分、評価額が下がるという仕組みです。

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[図表2]土地の利用状況による評価の違い出所:北井 雄大氏著『相続はディナーのように ”相続ソムリエ”がゼロからやさしく教えてくれる優雅な生前対策の始め方』(日刊現代)より引用

潤一郎:マンション節税のお話と考え合わせると、現金と更地を持っていて、相続税対策をしたい場合には、マンションを建てるのがよさそうですね。

相続ソムリエ:有効な節税手段になると思います。ただ、マンションを建てるのであれば、ある程度の家賃収入が見込めないと意味がありません。

小百合:確かにそうですね。たくさん入居者さんが入って、気に入って住み続けてくださるようなマンションにしなければ、いくら相続税が節税できたとしても赤字になってしまうもの。

マンション節税には、賃貸ニーズのマーケティングが必要

相続ソムリエ:以前、あるハウスメーカーが節税をうたい文句にして、高齢者の方にマンションを建設させたケースがありました。しかしマンションを建てたのは、かなり田舎で駅から遠い場所でした。入居者が決まらず、いつまで経っても家賃収入がないため、マンションオーナーはローンの返済に窮することになってしまったんです。

桜:ひどい話ですね!

相続ソムリエ:手持ち資金で建設していればまだよかったのかもしれませんが、借入金を利用していたので、家賃が得られなければローンが返済できません。そればかりか、担保になっている大事な土地を失ってしまうこともあるのです。

綾子:手練手管のセールス担当者に売り込まれたら、「いいかも」と思ってしまいそうね。それを見抜く目を持たなくちゃ。

春樹:マンション経営って悠々自適のイメージで憧れるけど、決して簡単なことじゃないと思うな。

相続ソムリエ:春樹さんのおっしゃる通りです。マンション節税を考える際は、単純に現金を別の資産に変えるだけでなく、事業であるという意識が必要です。マンション経営の収支自体が黒字化して、相続税の支払いで残った資金を次世代に引き継ぐのがベストでしょう。

桜:東京タワーが見えるマンションを持ってるんだ、なんて言ってみたいな。

相続ソムリエ:桜さんのおっしゃるように、資産を受け継ぐ世代にとっても、赤字物件を相続したくないでしょう。もらってうれしいマンションになるよう、立地などもしっかり検討することが大事です。

潤一郎:子や孫に残してやれるようなマンションか…。立地以外には、どんなマンションがいいんだろうな。

綾子:最近は、リノベーション物件も流行っていますよね。必ずしも新しいマンションである必要はないと思うな。

相続ソムリエ:綾子さん、よくご存じですね。築年数の古いマンションを保有しているケースもあるでしょう。

春樹:でも、古いマンションでは収益が出ないんじゃないですか?

相続ソムリエ:古いマンションの場合は、手持ちの預貯金を使って建て替えやリノベーションすることで収益性を高めるのも一つの手です。お金が減って相続税対策にもなりますよ。ただしその一方で、相続税対策として行われたマンション節税が否認された事例もありますので、そうならないように慎重に考えていきましょう。

北井 雄大
税理士