孫正義氏といえば…

ソフトバンクの孫正義さんといえば、「あの有名なソフトバンクを率いる辣腕の国際的なビジネスパーソンだ!」と思い浮かべるでしょう。ほかにも、子ども時代から大変な苦労をしたことや、アメリカの名門カリフォルニア大学バークレイ校に留学して飛び級で卒業したこと、帰国してすぐにソフトバンクをおこしたことも、知っている方もいるかもしれません。

ところで、孫さんの「笑顔」については、ご存じですか? 実はビジネスセンスに負けず劣らず抜群にいいのです。

歯医者での偶然の出会い

私と孫さんの最初の出会いは1997年。歯医者さんの待合室で雑誌を読んでいるときでした。 

先生が「パフォーマンス学というおもしろい学問を切り開いている、佐藤さんですよ」と私を紹介してくださると、孫さんは「パフォーマンス学ってどんなものですか?」と次々に質問してくれます。答えるたびに「なるほどね」とニッコリされるので、私は調子に乗ってどんどんしゃべりました。

孫さんは、20代のころ「豆腐1丁2丁と数えるように、将来は売り上げを1兆円企業にする」と言って、「ほら吹き」と笑われたことがありますが、すでにその目標に向かって着実に成果を上げていたときでした。それなのに、ビジネスとはほど遠いパフォーマンス学の説明を聞いて、おもしろそうにしているのです。

そこで私は、ぶしつけにも、開設まもないパフォーマンス学会の第1回ベストパフォーマー賞の候補をお願いしてみたのです。「そうですか……。おもしろいけどスケジュールが合うかな?」と、その日は終わりました。

まさかの返事が…

ところが、追って秘書の方からオーケーのお返事がきて、提案した私が飛び上がりました。ただ、練馬にある日本大学芸術学部の講堂で開催するので、そんなところに来ていただけるのか半信半疑でした。

「無理じゃありませんか」という内部の声とは逆に、当日、孫さんは笑顔で登場。講演中も親しみやすい笑顔で、集まった皆さんはすっかりくつろぎ、ファンになっていました。別の機会に、こんな話もしてくれました。

偉すぎる社長にビビッている新入社員に向かって「君たち、頑張ってくださいね。頑張らないと坊主にするからね。私みたいに」と、ご自身の頭を指さして声をかけたそうです。

そんな話をご自身からされると、緊張した社員の気がフッと軽くなります。話題が自分の頭ですから、ほとんどの人がつられて笑います。自虐だから誰からも文句が出ないのがいいです。あいつぐ企業買収や投資で世界を代表する凄腕ぶりが有名な孫さんが、みんなの警戒心を溶かす素敵なエピソードです。

偉すぎてみんなに怖がられる人ほど、人に対する振る舞いや、自虐ネタを含んだちょっとした小話などを工夫して、まず自分から笑顔を発信したら素敵ですね。

佐藤 綾子
株式会社国際パフォーマンス研究所 代表