養豚の「大規模化・集約化」による豚肉価格安定への取り組み
アグリテックによる養豚業の低コスト化に取り組んでいる企業の一つに、キングキー・スマート・アグリ(京基智農)があります。地価が高い広東省深圳市に本部を置いていることもあり、同社が運営する養豚場は一般的な平屋ではなく、最低でも4階建て以上になっています。工場やビルのような構造になっているため、疫病防止という面も期待されます。
養豚場内部にはびっしりとスマート監視カメラが設置されています。中国の大手通信機器・端末メーカーのファーウェイとの共同で開発されたシステムですが、なにか異常があればただちに管理室のアラートが鳴ります。そればかりか、養豚場内の温度等もリアルタイムでコントロールしているほか、豚の重量もカメラ映像からAIが推測します。一頭一頭の重さを量る必要がなくなる省人化の仕組みです。
同社は「6750モデル」を標榜しています。これは、子どもを産む「育成豚」について6,750頭、食用に育てる肥育豚について「7万2,000頭」を1ユニットとして管理するものです。この管理に必要な人員は105人です。1人で約700頭の豚を管理している計算になりますが、これは他の大手養豚場と比べて3割ほど多いとのことです。
アグリテックによる養豚は今、ちょっとしたブームの様相を呈しています。湖北中新開維現代牧業有限公司は2022年、総工費は40億元(約800億円)をかけ、26階建てという高層養豚ビル2棟を建設しました。年120万頭もの豚が出荷されるという巨大プロジェクトです。養豚場を高層化しただけではなく、中には監視カメラやセンサーを駆使した管理ソリューションが詰まっています。
こうしたソリューションを提供する企業は多く、専門ベンダーのほかに、ファーウェイ、電子商取引大手のアリババグループやJDドットコム、検索大手バイドゥなど中国を代表する大手IT企業も参入しています。アグリテックによる養豚革命がどれほどブームになっているかを感じさせます。
養豚業に「付加価値」を与える「ブロックチェーン技術」
大手でも中小零細事業者にコスト面で太刀打ちできる養豚ができる。これが一番重要なポイントではありますが、デジタル・ソリューションでさらなる付加価値を目指す動きもあります。
アリババグループは2018年に「スマート養豚ビジネス」を発表しましたが、その際に強調されたのは、生産現場の技術革新に加え「食品トレーサビリティ」の推進です。アリババグループはEC(電子商取引)に加え、リアルのスーパーなど小売店も経営していますが、生鮮食品に貼り付けられたQRコードから生産地や流通経路を表示できるトレーサビリティを推進しています。
デジタル化が進めば、スーパーに並んでいる豚肉に関して、より多くのデータを表示できるようになります。「生まれてからずっと檻に閉じ込められていたのか、外で放し飼いにされていたのか」「生まれてから出荷されるまでに何キロ走り回ったのか」「病気をして薬を与えられた履歴はないか」といったデータをすべて記録し、消費者に提供できるようになるのです。そこから、「元気に運動していた豚の肉を食べたい」という新たなニーズの掘り起こしにつながるかもしれないと、アリババグループは未来を語っています。
こうしたデータを消費者に提供するためには、豚の健康状態や走行距離といったデータを取得していることに加え、そのデータが改ざんされていないことが前提となります。データがいくらでもごまかせるのであれば、そこに付加価値は生まれません。そこで期待されているのが「ブロックチェーン技術」です。
暗号通貨の基盤技術として知られるブロックチェーンですが、中国では暗号通貨は全面的に禁止されています。しかし、ブロックチェーンは、改ざんができないデータ記録技術として期待され、政府も推進しています。食品トレーサビリティは主要な応用シーンの一つですが、農業分野への活用はほかにもあります。
たとえば、農業に「金融」「保険」のサービスを適切に提供するための活用です。
どんな業種であっても、融資や保険といった金融サービスを供給するには、その業種のリスクに関する正確な情報が必要です。ところが、従来、農業ではその正確なデータを集めることが難しかったのです。
もし、ブロックチェーン技術を活用して、どの場所で生産された農作物がどのように流通し、いくらで売れたのかというデータが得られれば、金融や保険を提供する判断材料となります。ほかにも水道や電気の使用量データや、人工衛星から農作物の種類や生育状況を観測したデータを活用することも進められています。農業+金融の「アグリフィンテック」と呼ばれる領域です。