人口増加に伴い世界的な食糧危機が深刻化しつつあります。テクノロジーの力で農業の生産性を向上させる「アグリテック」に注目が集まっていますが、決して容易な課題ではありません。そんななか、中国では、様々な最先端技術を応用したアグリテックの模索が続いており、その成果が見えつつあります。ドローン、AI、ブロックチェーン、フィンテック等を応用した新しい時代のアグリテックについて、中国をはじめとする国際的なテック事情に詳しいジャーナリスト・高口康太氏が解説します。
農業に「AI」「ブロックチェーン」を応用して生産性アップ…中国で進化する「新時代のアグリテック」とは (※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

中国の消費者物価指数が「マイナス」に…原因は「豚肉」

 

 

アグリテック(農業テクノロジー)は今、世界中で注目されています。なかでも、新興テクノロジーを強みに経済成長を続ける中国では、同国が得意とする「デジタル化」が農業を大きく変革しつつあります。


現在、「中国は日本化するのでは」「デフレに突入するのでは」との不安が広がっています。消費者物価指数(CPI)が2023年に入って低迷し、7月、10月に前年比マイナスを記録したことは大きな衝撃を与えました([図表1]参照)。

 

中国国家統計局発表をもとに筆者作成
[図表1]中国消費者物価指数推移 中国国家統計局発表をもとに筆者作成

 

 

ただし、注意すべきは、中国のCPIは豚肉価格が占める比重が大きいということです。豚肉価格の上昇下降がCPIを大きく動かしてしまうのです。中国のCPIは「チャイナ・ピッグ・インデックス(ChinaPigIndex)」の略称だというジョークもあるほどです。


2023年10月のCPIは前年同月マイナス0.2%でしたが、実は食品を除くとプラス0.7%でした。CPIが急落した要因の大部分は豚肉価格によるもので、マイナス0.55ポイントもの影響がありました。つまり、豚肉価格さえ下がっていなければ、物価はプラスだったわけです。


なぜ中国の豚肉価格がこれほど大きく変動するのでしょうか。その背景には中小零細の養豚業者が豚肉生産の大部分を担っていることがあります。


中国の養豚は、農民が庭先で豚を飼っている、といったきわめて牧歌的なスタイルの零細業者が生産量の60%ほどを占めています。こうした零細事業者は、足元の豚肉価格が上がればビジネスチャンスとみて飼育数を増やしますし、価格が下がれば減らします。みながみな同じような動きをするので、価格が周期的に上昇下降してしまうわけです。


もし、大規模事業者ならば、このように足元の価格に簡単に左右されることはありません。そこで、中国政府は養豚業の集約化と大規模化を推進しています。しかし、そこには壁があります。零細事業者のほうが安く豚を育てられるのです。


どういうことかというと、大規模事業者は設備投資が必要ですし、衛生安全への投資も必要です。これに対し、零細事業者は庭に小屋がおればOKであり、大半は衛生対策らしいことを何もしていません。


2013年に、上海市を流れる黄浦江に6,000頭を超える豚の死骸が漂流しているというニュースがありました。「なんでこんなことがあるのか?」と不思議に思いましたが、零細養豚業者が病死した豚を川に捨てていたからというのが真相でした。処理施設に頼むとお金がかかるのでこっそり不法投棄したのです。不法投棄はふだんから行っていたのですが、病気で大量死があったために、目立ったのだということです。


養豚業の集約化・大規模化をしないと、このような問題も解消しません。そこで、大規模業者であっても、低コストで生産できるようにするアグリテックが求められています。