人口増加に伴い世界的な食糧危機が深刻化しつつあります。テクノロジーの力で農業の生産性を向上させる「アグリテック」に注目が集まっていますが、決して容易な課題ではありません。そんななか、中国では、様々な最先端技術を応用したアグリテックの模索が続いており、その成果が見えつつあります。ドローン、AI、ブロックチェーン、フィンテック等を応用した新しい時代のアグリテックについて、中国をはじめとする国際的なテック事情に詳しいジャーナリスト・高口康太氏が解説します。
農業に「AI」「ブロックチェーン」を応用して生産性アップ…中国で進化する「新時代のアグリテック」とは (※写真はイメージです/PIXTA)

ブロックチェーンが「ドローン導入」による農業の効率化を後押し

 

 

アグリテックにおけるブロックチェーンの活用でユニークなのは、ドローンドライバーの信用力を数値化するサービスです。


今、中国では農業用ドローンが急激に成長しています。農薬散布や種まきなどに活用されていますし、大規模な農業企業では農地の巡回にも使われています。将来的には5G通信を使って遠隔地から操作可能な農業ドローンの運用が有望視されています。辺境の農地で農薬を散布しているドローン、その操縦士は数百キロ離れた都市のコントロールルームにいる……といった場景が現実のものとなりそうです。


現在の話に戻りましょう。中国調査企業・前瞻産業研究院は、2022年時点で13万台のドローンが活用されていると推定しています。市場規模は100億元(約2,000億円)を突破したとみられます。ラジコンヘリコプターと比べると、ドローンは操縦が簡単なことがメリットだといいます。農民に依頼を受けて農薬散布を請け負う、フリーのドローンドライバーが新たな職業となりました。


こうしたフリーのドローンドライバーは農民との個人契約で仕事を請け負います。ある人物がどれだけ稼いでいるのか、クライアントである農民から評価されているのかといったデータを金融機関が評価することは難しいのです。ドローンの購入やリース、あるいは修理代や保険加入など、金融サービスを必要なシーンは多いのに、データ不足でそれが得られないのが課題です。


そこで、アリババグループの金融関連企業アントグループと、ドローン大手DJI傘下の大疆農業が共同でドローンドライバーに対する融資・リースサービスを展開しました。ドローンドライバーは日々の仕事をこのサービスに記録することによって信用を蓄積し、金融サービスにアクセスできるようになります。


私たちの食を支える農業。これまでもテクノロジーがその進歩を支えてきました。古くは灌漑技術や新たな農地の開拓から始まり、品種改良や新たな肥料の開発、機械化などなど、枚挙に暇がありませんが、デジタル化という新しいアプローチでのアグリテックが今、大きく羽ばたこうとしています。
 

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〈著者〉
高口 康太

ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。2008年北京五輪直前の「沸騰中国経済」にあてられ、中国経済にのめりこみ、企業、社会、在日中国人社会を中心に取材、執筆を仕事に。クローズアップ現代」「日曜討論」などテレビ出演多数。主な著書に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、梶谷懐氏との共著)、『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、高須正和氏との共編)で大平正芳記念賞特別賞を受賞。