せっかく鮨屋に行くのなら、腕の立つ職人に握ってもらった美味しいお鮨が食べたいもの。鮨評論界の第一人者であり、著述家の早川光氏は「初めての鮨屋に行った時に必ずチェックすることがある」と言います。早川氏の著書『新時代の江戸前鮨がわかる本 訪れるべき本当の名店』より詳しく見ていきましょう。
優秀な鮨職人に求められる「能力」とは
今の鮨職人にとって不可欠なもの。それは握りの技でも包丁の技術でもなく“魚の知識”なのではないでしょうか。
おつまみの比重が高くなり握りに使わない魚も扱うようになったこと。店の個性を出すため他店で使っていない新しい魚を探すようになったこと。いろんな理由によって、今は鮨屋で使う魚の種類が10年前に比べて飛躍的に増え、魚や産地の新しい情報が毎日のように更新されています。そんな中、古い知識だけで魚の仕入れを続けていたら、いい魚は買えなくなってしまいます。
魚の種類が増えたのには、業務用の産地直送が普及したことも関係しています。かつての産直は消費者に向けたものがほとんどでしたが、今は市場を通さず地方の鮮魚店と直接取引をしたり、企業が間に入る形で漁師の獲れたての魚を買うということが珍しくなくなっています。それによって地元だけで流通していたマイナーな魚も東京の鮨屋に入ってくるようになりました。
鮮魚店や漁師との取引には、鮮度のいい魚を直接届けてもらうという以外にもメリットがあり、魚の活け締めや血抜き、神経抜きといった下処理を施してくれたり、現地でたて塩(濃い塩水)につけて塩締めにしたりといった細かい注文を受けつけてくれることもあると聞きます。中には、最近話題になっている“津本式”で血抜きをしてくれる鮮魚店まであるのだとか。
そんなわけで新時代の鮨職人は、魚の種類、産地から血抜きの方法まで幅広い知識がなければ務まりません。高級店ともなれば尚更です。だからこそ、魚に詳しい鮨職人のいる店を選ぶべきだと思います。
詳しいかどうかを確かめるには、質問をしてみるしかありません。ひと昔前の鮨職人は無口だったり不愛想だったりして話しかけにくい雰囲気がありましたが、今は優しい人ばかりなので遠慮しなくても大丈夫です。ただし質問する時は、あくまで「教えてもらう」という姿勢で聞いて下さい。こちらから教えてあげようなんて思ったら、冷たい目で見られてしまいます。
シャリの味を確かめよう
今は赤酢を使ったシャリ、しかも複数の酢をブレンドしたものが増えています。昔の鮨屋のシャリの味は大まかな傾向が決まっていましたが、今は端的に言えば100軒の鮨屋に100種類のシャリがあるという状況。ですからシャリの特徴を知ることは、その店の個性を理解する上ですごく重要。
僕は初めての店でも何度も通った店でも、1貫目の握りを食べる時にはシャリだけに意識を集中して味を確かめます。これは習慣みたいなものですね。その日の体調とか気温によって味の感じ方も変わるので、そこは常に気をつけます。
味を確かめるというと難しく考える人が多いと思いますが、感覚的なものでいいのです。
早川 光
著述家