私立中学を受験する子どもの割合は毎年増えていますが、特に地方ではまだまだ私立の学校の数も少なく、公立を選んで、受験はさせないという家庭も少なくありません。子どもを公立に通わせるなら「教育費」の負担軽減が期待できますが、油断していると危うい状況に陥ることも……。本記事では、Sさん夫婦の事例とともに、教育費の資金計画と生涯設計の考え方について、FP dream代表FPの藤原洋子氏が解説します。
子ども3人、全員「オール国公立」で有難いが…年収1,200万円の58歳部長「退職金2,500万円でも全然足りません」定年間際の焦燥【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

お金に困るということは考えられないが…

Sさんの子どもたちの成績は、3人とも上位のほうでした。部活動にも各々参加し、夫婦の願いどおり充実した学校生活を送っていたそうです。Sさんの年収は安定して右肩上がりで、年収は1,200万円に到達します。妻も長女が小学校高学年になり、子育てに手がかからなくなるようになると、パートに出られる余裕も生まれてきました。

 

ただし収入と支出のバランスはトントンというところでしたが、貯蓄といえるお金はない状態でした。

 

Sさんが50歳になったころ、部長昇進をきっかけに「退職金は2,500万円受け取れるし、年金収入や妻のパートなどもあって、お金に困るということは考えられないけれど、少しは老後のことも考えながら貯蓄をしていかないと」と考え始めたそうです。

Sさんの父親ががんに罹患…マネープランが悉く崩壊する

Sさんが部長に昇進し、しばらくしたころ、Sさんの父親(80歳)が大腸がんを発症しました。幸い進行度は初期段階でしたのでひと安心していたところ、1年後に再発したのです。

 

Sさんの両親はSさん宅から、車で1時間半ほど離れたところに住んでいます。いままでは、“遠い”と感じるほどの距離ではないと思っていました。しかし、両親の年齢的に運転させることは不安なため、病院へSさん夫婦が車で連れていったり、度々様子をみにいったりと、そうした交通費が日に日に嵩むこと、往復で3時間の時間を要することから、1時間半程度の距離がこんなにも重く感じるとは、とSさん夫婦は疲弊していきます。

 

高齢の両親、特にSさんの母親(82歳)は父親ががんを発症したころから、看護やこれからの生活について不安を口にするようになっていました。

 

Sさんには妹(53歳)がいますが、遠方に嫁いでいるためたびたび実家に行くことはできません。

 

Sさんの妻は、週に2~3回、Sさんの実家を訪問することになりました。不定期に母親から連絡があるので、パートは一旦辞めざるを得ませんでした。

 

Sさんの自宅では、家族が集まるたびにSさんの両親の話題になっていました。身近な人が“がんを発症した”となれば、動揺するのは当然でしょう。幼いころから祖父に大変なついていた長男は、大学受験を控えていましたが、合格はほぼ確実といわれていたにもかかわらず、受験に失敗してしまいます。

 

これにより、1年間の高額な予備校の費用を負担する必要が出てきました。2度目の受験では無事合格できましたが、地元の大学には届かず他県の国立大学に通うことになりました。長男には仕送りとして毎月15万円を用意することにしました。