インターネットやデジタルテクノロジーを活用し、遠隔地にいる病理医が病理診断を行えるように構築した診断システム「テレパソロジー」。通常の病理診断に比べ2倍近くの時間がかかるなど、まだまだ課題は残りますが、デジタルインフラの発展等により、技術的にはすでに顕微鏡による診断と遜色ない精度での診断が可能となっており、慢性的な病理医不足の問題を解決する可能性を秘めています。本稿では、乳がん診療の現場に「テレパソロジー」を用いた術中迅速病理診断を導入した、ときわ会常磐病院乳腺甲状腺外科・尾崎章彦医師の報告から、導入初期における問題点と対策について考えていきます。
遠隔地からの病理診断を可能にする「テレパソロジー」…〈病理医不足〉解決のカギとなるか?【乳がん治療現場からの報告】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「遠隔術中迅速診断」で用いられる2つの方法

筆者は、2018年7月に福島県いわき市にある当院に乳腺外科医として着任した当初から、このテレパソロジー技術が当院乳腺外科にとって要になると考えていました。

 

乳がん手術では、病理医が短時間に腫瘍の良性・悪性、リンパ節への転移の有無等を診断する「術中迅速病理診断」が必須である一方、当院には常勤の病理医が在籍していないためです。

 

週に一度だけ、非常勤の病理医が勤務していますが、それだけでは多くの手術を行うのは到底不可能。常勤病理医の不在をテレパソロジーが解決できるのではないかと考え、実際、筆者は2019年9月よりテレパソロジーを用いた術中迅速病理診断を導入しています。

 

以下では、筆者の経験に基づいてテレパソロジーの有用性を評価した研究を紹介します。

 

当院では2019年9月から2020年6月までの間に、45名の乳がん患者が遠隔術中迅速診断を受けました。その手術記録から、遠隔術中迅速診断の精度と所要時間を調べ、導入初期における問題点と対策を検討しました。

 

遠隔術中迅速診断には、2つの方法を用います。

 

1つは、デジタルスキャナーで病理画像のバーチャルスライドを作成し、クラウド上にアップロードしたデータを基に遠隔地の病理医が診断するシステムです。上に説明した方法であり、Medical Network Systems (MNES) Incという会社のシステムを利用しました。

 

もう1つは、テレビ会議システムを介して顕微鏡と同じ要領で、遠隔地の病理医がリアルタイムに観察し、診断する方法です。近隣医療機関であるいわき市立医療センターの病理医の協力のもとに実施されました。

 

なお、乳がんでは病巣だけでなく、もっとも転移の起きやすい腋の「センチネルリンパ節」について、生検と術中迅速病理診断が行われます。

 

かつて腋のリンパ節は全摘出(腋窩郭清)されていましたが、腋窩郭清の引き起こすリンパ浮腫が患者さんの生活の質を下げ、また、腋窩郭清を避けた場合も生存率が変化しないことが徐々に明らかになると、センチネルリンパ節への転移を術中に迅速診断し、転移が認められた場合のみ切除するようになりました。