遠隔術中迅速診断の「精度」はどれくらい高いのか
病理診断にあたっては、まず採取した検体から「病理標本」を作成します。「病理標本」といえば、ホルマリンで検体を処理する「永久標本」が標準的ですが、この方法では時間がかかってしまうため、術中迅速診断では短時間で作成できる「凍結標本」を用います。
研究では、凍結標本による遠隔術中迅速診断の正確さ(精度)について、永久標本による診断と比較し、評価しました。45の症例中、永久標本による診断で転移ありと診断されたのは9例。遠隔術中迅速診断では6例で転移が認められました(精度67%)。
また、永久標本で転移なしと診断された36例のうち34例は、遠隔術中迅速診断でも正しく診断されていました(精度94%)。全体として、永久標本の場合と比べた遠隔迅速病理診断の精度は89%(40/45)であり、2つのシステム(クラウドもしくはテレビ会議)間でも診断精度に差はありませんでした。
なお、正確な診断が実施されなかった5例のうち4例についてその理由を評価したところ、3例は「凍結標本」の作成方法にも原因がありそうでした。
読者の方々は、今回、11%(5例)の症例において、正確に診断がなされなかったことを不安に思っていることでしょう。実際、過去の研究を参考にすると、遠隔病理診断の診断精度は概ね90%前半であり、我々の調査結果はそれよりは若干劣ると言えます。
この調査の結果がこうなった主な理由は、調査の期間が他の試験と比べて短かったからだと考えています。「凍結標本」を作るのには特別な技術が必要ですが、病理診断医は遠隔から直接指導することができません。こうした小さな違いの積み重ねが、診断の精度を下げる原因となっているかもしれません。
なお、現在では、当院の遠隔病理診断は過去調査と遜色ない診断精度を確保できていると感じますし、病理診断に携わっている医師も「顕微鏡での診断と遜色なく実施できている」と感想を述べています。
次に、遠隔術中迅速診断に要する平均時間を調べました。これは、標本を病理医に提出してから、結果が執刀医に報告されるまでの時間を指します。その結果、遠隔術中迅速診断に要した平均検査時間は61分(クラウドシステムでは69分、テレビ会議システムでは54分)でした。これは、通常の術中迅速診断に要する平均時間(約30分)の約2倍です。