海に囲まれた日本は世界でも有数の海洋大国です。漁業が古くから盛んに行われており、豊富な海の幸は日本の食文化と切っても切れないものです。漁業はこれまで、漁師たちが海での経験で培ってきた「勘」、そして数々の重労働によって支えられてきました。ところが現在、漁業は人手不足などさまざまな問題に直面しており、新たなかたちを模索する必要に迫られています。その状況を変える鍵となるのが、AIやテクノロジーを活用したスマート漁業。本記事では、スマート漁業がどのように問題を解決できるか、また導入の課題は何かなどを見ていきます。
言語化するのが難しい漁師の「勘」をデータ化。スマート漁業が作り出す、持続可能な新しい水産業 (※写真はイメージです/PIXTA)

漁師の「勘」や「出漁判断」をAIが担うメリット

宮城県東松島市 ビッグデータで漁師の勘を定量化

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

2016年からスマート漁業に取り組んでいるのが、宮城県の東松島市です。天候や潮の流れが刻々と変化する海で的確な漁をするためには、漁師の実践で身に着けた「勘」が頼り。

 

しかし経験が浅い若手の漁師の場合には十分な力量がなく、また、ベテランの漁師も「勘」が外れ失敗することも少なくありません。こうした状況下では収穫量が読めず収入は安定せず、ますますビジネスとして継続が難しくなるという悪循環がありました。

 

こうした状況を打破するため、東松島市が目をつけたのがビッグデータです。KDDIらが開発した「スマートブイ」を活用して、気温、気圧、水温、水圧、潮流、塩分濃度といったデータを収集。漁師たちに漁獲量の情報をスマートフォンやタブレットで入力してもらい、気候条件と漁獲量の詳細な相関関係をデータ化することに成功しました。

 

知見を「見える化」し、漁師の「勘」を定量化、データ化することで、効率的な漁業ができるようになりました。客観的なデータとして知識を共有できるため、若手の育成にも大きく貢献します。

 

 

トリトンの矛 漁師の漁獲報告をデータ化、AIが出漁判断

長崎県のベンチャー企業「オーシャンソリューションテクノロジー」が開発した「トリトンの矛」は、AIを使って最適な漁場の位置情報などを提案するアプリです。

 

ユーザーは、操業日誌の「いつ、どこで、どんな魚がどれくらい獲れたか」という情報と、気象条件や海水温度、潮流などの衛生データをインプット。これらのデータをAIで解析し、どの場所でどれだけの魚が獲れるかなどの情報提供を行います。

 

漁師が手書きでつけてきた操業日誌をデータベース化することで、AIが漁師のノウハウを学習します。

 

また、「トリトンの矛」は「出漁すべきかどうか」の判断をAIがアドバイスしてくれるのが特徴です。同社の調査によれば船団が年間に出漁する回数のうち、およそ4割が何も獲れずに帰ってくる「空振り」。一回の操業では燃料費が20万円かかるため、空振りの回数を減らすだけでも大きなコスト削減につながります。

 

検証では、AIの出漁判断は実用可能な精度になりました。今後さらに精度が高まれば、燃料コストの削減や休暇の増加、さらには環境負荷の削減にもつながりそうです。