海に囲まれた日本は世界でも有数の海洋大国です。漁業が古くから盛んに行われており、豊富な海の幸は日本の食文化と切っても切れないものです。漁業はこれまで、漁師たちが海での経験で培ってきた「勘」、そして数々の重労働によって支えられてきました。ところが現在、漁業は人手不足などさまざまな問題に直面しており、新たなかたちを模索する必要に迫られています。その状況を変える鍵となるのが、AIやテクノロジーを活用したスマート漁業。本記事では、スマート漁業がどのように問題を解決できるか、また導入の課題は何かなどを見ていきます。
言語化するのが難しい漁師の「勘」をデータ化。スマート漁業が作り出す、持続可能な新しい水産業 (※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

人材不足と技術継承の難しさに直面

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
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今日の水産業界はどのような問題に直面しているでしょうか。最も深刻なのが人材不足です。現在は農業、林業など、第一次産業全体で若者離れ、高齢化が進んでいます。これまでの担い手が高齢化し引退していくなか、次世代の育成を進めていかなければなりません。

 

しかし少子高齢化の影響や、低賃金であること、遠洋漁業の場合は一度漁に出ると長期間船で生活しなければならない環境などから、満足な人材確保が難しくなっています。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
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また、技術継承が難しいという問題もあります。漁師たちは長年かけて培った自分たちの経験によって、効率的に魚を獲る方法や質の良い魚を見極める目を養ってきました。それは1人1人が経験を積み、実践を通して身につけていく技術なので、どうしても属人化しやすい側面があります。

 

この技術を引き継ぐには、若手は場数を踏み失敗を繰り返しながら学んでいくしかありません。

 

もしベテランの漁師が亡くなってしまった場合、そのノウハウが誰にも継承されずに失われてしまうというリスクがあります。今まさに漁業の現場では、テクノロジーを活用してデータ化し、誰でも効率よく技術を習得できる体制を整えることが求められています。職人の「勘」をマニュアル化し、属人化から標準化への転換期を迎えています。

 

さらに、現在は世界的に魚の消費量が増えており、水産資源の枯渇への懸念から養殖への転換が叫ばれています。人材不足などの問題があるなかで養殖市場を拡大するためには、さらなる効率化、人材育成は急務です。

漁業が抱える課題を解決するテクノロジー

山積する課題を一挙に解決することはできないものの、1つ1つをテクノロジーで改善に導くことはできます。実際に今、漁業の現場ではさまざまな技術革新が進行中。具体例を見ていきましょう。

 

くら寿司 AIを活用して養殖したハマチをブランドに

回転寿司チェーンのくら寿司は、2022年6月に新商品「特大切り AIはまち」を3日間限定で発売し話題になりました。これはくら寿司の子会社であるKURAおさかなファーム株式会社がウミトロン株式会社と協働し、同社のスマート給餌機「UMITRON CELL」を活用して育てたハマチです。ハマチのスマート養殖に成功した日本初の例です。

 

このスマート給餌機は、AIが魚の食欲を画像解析し、給餌の量やタイミングを最適化します。ハマチは一度に多くの餌を食べるため、いかに無駄なく生育に必要な量を食べさせるかが兼ねてより課題でした。

 

これまでは人が毎日生け簀へ行き、目視で確認しながら与えていましたがスマート化によりエサの量は約1割削減され、生け簀に行く頻度は2〜3日に1回へ減少し、大幅なコスト削減を実現しました。