海に囲まれた日本は世界でも有数の海洋大国です。漁業が古くから盛んに行われており、豊富な海の幸は日本の食文化と切っても切れないものです。漁業はこれまで、漁師たちが海での経験で培ってきた「勘」、そして数々の重労働によって支えられてきました。ところが現在、漁業は人手不足などさまざまな問題に直面しており、新たなかたちを模索する必要に迫られています。その状況を変える鍵となるのが、AIやテクノロジーを活用したスマート漁業。本記事では、スマート漁業がどのように問題を解決できるか、また導入の課題は何かなどを見ていきます。
言語化するのが難しい漁師の「勘」をデータ化。スマート漁業が作り出す、持続可能な新しい水産業 (※写真はイメージです/PIXTA)

AI活用によってナマコの資源量が「1.6倍」に回復したワケ

はこだて未来大学 AI分析でナマコの乱獲を防止

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

漁業の効率化を進めると同時に重要なのが乱獲防止です。水産資源の枯渇が国際的な問題となるなか、持続可能な漁業のためには生態系を守りながら漁を行わなければなりません。ここでも、AIの活用が注目されています。

 

その1つが、はこだて未来大学のマリン・ITラボが開発したナマコの保全アプリです。ナマコは中華料理の高級食材でしたが、中国の経済成長とともに需要が急増。価格が高騰し、乱獲により資源枯渇の危機に陥りました。

 

これを受け、マリン・ITラボはタブレットで使える専用のアプリを開発。漁師たちが自分で捕獲場所や捕獲量を入力すると、ほぼリアルタイムでアプリのデータが更新されます。

 

シンプルな設計で簡単に操作でき、ナマコの資源状況が一目でわかるアプリは漁師たちからも好評で、「獲りすぎないこと」の重要性の理解にもつながりました。結果、ナマコの資源量は1.6倍まで回復したのです。便利なテクノロジーが、関わる人たちの意識まで変えていくことが分かります。

 

スマート漁業の可能性と課題

AIやテクノロジーを活用し、漁師のスキルをデータ化するスマート漁業は、漁業が抱える問題を一挙に解決する可能性を秘めています。一方で、専用の機械を購入するためにかかる高額なコストや、最初のデータ収集のための負担など、導入には課題もあります。

 

これまで最先端の技術をあまり必要としてこなかったため、現場で働く人たちにITの知識がなく、拒否感を抱く人がいる場合もあります。これらの課題は、今後さらに開発が進んでいくことで解消していくかもしれません。

 

スマート漁業は漁業の効率化によって生産性を向上し、1人1人の賃金を向上させることで若手人材の獲得と育成につなげ、産業として持続可能なものを目指すという好循環を作り出していくもの。おいしい魚を食べ続けられるように、技術の発展に期待したいですね。

 

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小沼 理

企画から執筆・編集まで多彩なメディアのコンテンツ制作に携わる編集プロダクション・かみゆに所属。得意ジャンルは日本史、世界史、美術・アート、エンタテインメント、トレンド情報など。