(※写真はイメージです/PIXTA)

これまで医療専門の税理士として、開業を希望されるドクターの相談を100回以上受けてきました。開業に踏み切るためには、確認すべきポイントが複数ありますが、なかでもドクターの年齢は、特に重要だといえます。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

クリニック開業までの「4つのステップ」

ドクターがクリニックを開業するにあたって、大まかなスケジュールを考えた場合、以下の4つのステップを踏むことになります。

 

ステップ1 開業場所の選定

ステップ2 銀行との借入交渉

ステップ3 人材の採用

ステップ4 広報活動(患者獲得活動)

 

しかし実際には、上記ステップ1~4の前段階として、「ステップ0」ともいうべき、開業時期(何歳で開業するのか)の決定があるように思います。

 

そもそもドクターは何歳で開業するのがよいのでしょうか?

 

当然ですが、ドクターごとに現在の状況や人生に対する考え方が異なりますので、すべてのドクターに該当するベストな年齢はありませんが、ご自身の状況を鑑みながら、何歳までに開業するべきかのヒントになるお話をしていきたいと思います。

開業年齢を見極める5つのポイント

開業年齢を決める際には以下の5つのことがポイントになると思います。

 

①医療の実務経験

開業するにあたって、まずは医療の実務経験が必要なのは言うまでもありません。ただしその反面、ドクターは高度専門職であることから、探究心が強く勉強熱心な方が多く、医療の専門知識や技術の修得にこだわり過ぎてしまうと、いたずらに開業を先延ばししてしまうリスクがありますので、注意が必要です。

 

実際に開業なさった弊所顧問先のドクターを拝見しておりますと、「患者さんといい人間関係が構築できるコミュニケーションスキルがあれば大丈夫」「難しい症例の場合は提携先の医療機関に紹介ができれば大丈夫」と考えていらっしゃる方も多いように思います。

 

②スタッフ管理のスキル

開業には医療の専門知識のみならず、医療現場スタッフを管理するスキルも必要です。「無くて七癖」ということわざもあるように、一見非の打ちどころのないスタッフに見えたとしても、付き合えば多少の癖があるものです。開業するということは、経営者になり、直属の部下を何人も持つわけですから、スタッフの長所と短所を併せ呑むような、人間的な器を拡げる必要があります。

 

開業したら「あの人とは気が合う」「あの人とは気が合わない」などとは言っていられません。多少性格的に癖のあるスタッフを採用したとしても、まずはヤル気にさせ、そのスタッフの長所を伸ばして育てていく必要があります。

 

もし、いまの勤務先で医療現場のリーダーになる機会があるようでしたら率先して引き受け、スタッフ管理の経験を意識的に積まれたほうがいいと思います。

 

いまさら管理職になる予定はない、または勤務先の医療機関にはそのような管理職のポストがないという方の場合でも、後輩の医師はいらっしゃるでしょうから、その方々の医療技術の修得や人間性にも関心を持ち、悩みを聞き励まし、世話をすることを意識して行いましょう。開業後、そのスキルがスタッフ管理に大いに役に立つと思います。

③気力・体力・情熱の充実

開業は精神的・肉体的にストレスがかかることがありますから、ご自身の現在の健康状態を把握することが大切です。理想としては、気力や体力が漲っている時期に開業したほうがよいでしょう。

 

また、地域の医療ニーズに貢献したいという情熱が強いことも重要だといえます。そう考えますと、気力・体力・情熱に焦点を当てた場合、開業は若ければ若いほどいいのかもしれません。

 

上記①の実務経験や上記②のスタッフ管理のスキルは40代、50代と年齢を重ねれば重ねるほど増してくるものですし、逆に、上記③の気力・体力・情熱は一般的に、40代、50代と年齢を重ねるほど下がります。それぞれがドクターご自身の年齢と相反するのが悩ましいところです。

 

④家族構成

お子さまがおられ、できれば将来ドクターになってほしいと思われているなら、医学部進学の学費の準備が必要です。進学先の医学部を国公立のみと考えるのであれば、さほど心配する必要はありませんが、私立の医学部までを視野に入れた場合、一般的に6年間で4,000万円以上の学費がかかってきます。お子さまの高校卒業のタイミングまでに、全額とまでは言わずとも、ある程度の学費の目途をつけておきたいところです。

 

勤務医の環境のまま、お子さまの十分な学費を準備することは大変だと思います。

 

一般的には、お子さまが小学校低学年ぐらいまでに開業し、その後3~5年程度(お子さまが小学校高学年のころ)にクリニックの経営を軌道に乗せ、その後は学費の準備を行うというドクターが多いように思います。

 

⑤ご家族(特に奥様)の理解

開業する場合は、個人で数千万円~数億円という多額の借金を背負い、しかもその後数年間は、成功するかどうかわからない、とても不安定な状況が続きます。

 

独身のドクターなら、ご自分の強い意思があれば開業できますが、ご家族がおられるドクターの場合、開業についてご家族の理解が必要不可欠となります。

 

一般的に、奥様が開業を強く望んでおられるケースは少なく、「夫の夢には反対しません」というスタンスの奥様が多い印象です。

 

開業は勤務時代に比べ、楽しいことや苦しいことが何倍にもなってきます。

 

とくに、苦しいときには精神的に支えてもらえるよう、ご家族の理解を十分に取っておかれることをお勧めします。

まとめ

今までご説明してきましたように、開業のタイミングは、

 

①医療の実務経験

②スタッフ管理のスキル

③気力・体力・情熱の充実

④家族構成

⑤ご家族の理解

 

という5つの要素について、最もバランスのとれている時期がベストだといえます。

 

筆者の経験で言いますと、これらが丁度バランスよく重なり合ったタイミングは、一般的に30代後半~40代前半であるように思います。

 

「まだまだ実力が足りないから、いま開業するのは危険だ」「子どもの将来を考えると、開業はいましかない」…。そんな気持ちのはざまで、揺れ動いているドクターも多いのではないでしょうか。

 

先生はいつ開業しますか?

 

ご自身の開業に関する考えが少しでも前に進めば幸いです。

 

鶴田 幸之
メディカルサポート税理士法人 代表税理士