イーロン・マスクの下、Twitterは「X」へと名称が変わりました。マスクはXを、決済やエンタメなどあらゆる機能を盛り込んだ「スーパーアプリ」へと発展させることを目指しているのではないかといわれています。スーパーアプリはもともと中国で生まれ、発展してきたものです。スーパーアプリとはどのようなものか。Xはスーパーアプリになれるのか。中国をはじめとする国際的なテック事情に詳しいジャーナリスト・高口康太氏が解説します。
イーロン・マスクが「X」で目指すもの…1つのアプリで“すべて”が完結する「スーパーアプリ」への道 (※写真はイメージです/PIXTA)

「アリペイ」、「ウィーチャット」から分析するスーパーアプリの内実

アリペイにせよ、ウィーチャットにせよ、決済・送金機能だけではなく、さまざまな機能への導線がついています([図表]参照)。

 

[図表]左:アリペイの機能導線、右:ウィーチャットの機能導線
[図表]左:アリペイの機能導線、右:ウィーチャットの機能導線

 

アリペイ、ウィーチャットの機能導線は、それぞれ以下のようなものです。

 

【アリペイの機能導線】

《都市交通》

ディディ(配車アプリ)、ハローバイク(シェアサイクル)

 

《旅行お出かけ》

航空機鉄道チケット予約、ホテル予約、現地体験、鉄道公式サイト、翻訳、税関

 

《日常生活》

携帯電話料金支払い、怪獣充電宝(シェアバッテリー)、小電充電宝(シェアバッテリー)、宅配便追跡、ツァイニャオ(宅配便サービス)、映画チケット予約、公共料金支払い

 

《資金サービス》

為替レート検索、送金、クレジットカードの繰り上げ返済、紅包(ご祝儀)送金、外国人向けアリペイチャージ

 

《公益活動》

脱炭素関連の公益サービス、杭州アジア大会情報

 

【ウィーチャットの機能導線】

《フィンテック》

クレジットカードの繰り上げ返済、投資、保険サービス

 

《生活サービス》

携帯電話料金支払い、公共料金支払い、Qコイン(テンセントのゲーム課金)、都市サービス、公益事業、ヘルスケア

 

《交通》

移動サービス各種、鉄道チケット、ディディ(配車アプリ)、ホテル予約

 

《ショッピング》

ブランド発見、JDドットコム(EC)、フードデリバリー、映画チケット予約、格安商品購入、ピンドゥオドゥオ(格安EC)、唯品会(EC)、中古品購入、不動産

 

アリペイもウィーチャットも、びっくりするほど多くの機能への導線を備えています。日本に引きつけて考えてみると、公共料金の支払いや映画チケットの予約など、コンビニで利用できるサービスの多くが集約されているということです。アリペイやウィーチャットはいわば「手のひらの上のコンビニ」なのです。

他社サービスまですべて「アプリ内」で完結してしまう

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

どれだけ巨大な企業であっても、これほど多くのサービスを自社だけで提供することはできません。他社のサービスも多数含まれています。さらにディディやJDドットコムなど企業名が表示されているサービスまであります。重要なのはこれらのサービスを使う時、アリペイやウィーチャット以外のアプリやサイトに移動することなく、もともと使っていたアプリ内で操作が完了するという点です。

 

しかも、まだまだ多くの機能を使うことができます。アリペイやウィーチャットには「ミニプログラム」と呼ばれる追加機能があります。通常のスマートフォンアプリよりも手軽にダウンロードでき、しかもアリペイやウィーチャットの中で動作します。カジュアルゲームやネットショップからお店の会員アプリなどさまざま。

 

その数はアリペイで400万種類以上、ウィーチャットで700万種類以上と、膨大な数があります。米アップルの発表によると、iPhoneやiPadのストアで配信されているアプリは2022年時点で178万件だったそうです。それよりもはるかに多いミニプログラムが存在するのです。

 

アリペイやウィーチャットから別のアプリやブラウザに移行することなく、いろんな機能やサービスを活用することができる。これがスーパーアプリと呼ばれる理由なのです。実際に使ってみるとわかりますが、スーパーアプリはとても便利です。いちいち新しいアプリをインストールするのはとても面倒ですよね。