北京市では経済効果が「年間約5,520億円」との試算も
CVISによる自動運転の実現に期待が高まっていますが、問題は大規模なインフラ整備が必要でコストがかかること。果たして割に合う投資になるのでしょうか。
清華大学スマート産業研究院と中国検索大手バイドゥ(バイドゥ)、中国情報通信研究院、チャイナユニコムなどの研究機関、企業が共同で制作した報告書「自動運転のためのCVIS要素技術と展望 第2版」(2022年)では、次のように試算しています。
北京市の道路をハイレベルなスマート道路に改造するために必要なコストは126億1,000万元(約2,500億円)が必要とのこと。人口2,800万人が暮らす巨大都市とはいえ、一つの街の改造だけでこれだけの投資が必要となると、やはり容易ではありません。
ですが、同報告書は他方で、これは「元が取れる」投資であるとも指摘しています。交通事故減少の経済効果が年12億5,000万元(約250億円)、渋滞減少による燃費向上の経済効果が年8億2,200万元(約160億円)、そして交通効率改善に伴う経済成長が年205億6200万元(約4,100億円)との試算です。合計で約226億元(約5,520億円)。たった1年で投資額の2倍以上ものリターンが見込めるというのです。
このように、リターンの大部分を占めるのは交通効率改善ですが、北京市民にとってはきわめて魅力的です。
北京を旅行された方は目にしたと思いますが、朝晩の通勤ラッシュは悲惨そのもので、幹線道路はいつも大渋滞となっています。北京市政府は公共交通機関での移動を奨励し、路線バスや地下鉄の価格は非常に安く設定されていますが、こちらも東京の鉄道を上回るほどの混雑ぶりです。この混雑を解消するべく、企業や教育機関を一部移転する新都市「雄安新区」の建設も始まっているほどです。
自動運転の実現によって交通渋滞が解消し、通勤時間の短縮、あるいはより遠い郊外からの通勤が可能となれば、そのメリットは巨大なものがあります。
同報告書では2030年時点で全道路の30%、2050年時点で90%のスマート道路化が実現されるとの予測を示しています。もし、このロードマップが実現すれば、2030年には大都市では自動運転が現実のものとなっているかもしれません。
車だけで無理ならば都市まるごと改造してでも自動運転を実現させる。この壮大なチャレンジが「自動運転の冬」を乗り越える原動力となるのか、期待されます。
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高口康太
ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。
2008年北京五輪直前の「沸騰中国経済」にあてられ、中国経済にのめりこみ、企業、社会、在日中国人社会を中心に取材、執筆を仕事に。クローズアップ現代」「日曜討論」などテレビ出演多数。主な著書に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、梶谷懐氏との共著)、『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、高須正和氏との共編)で大平正芳記念賞特別賞を受賞。