「道路」を進化させることで自動運転を実現に近づける「V2X」と「CVIS」
この「自動運転の冬」をどうにかして乗り越えられないか。そこで今、こうした状況を変える切り札として期待されるのが、車と外部の機器を通信でつなぐ技術「V2X(Vehicle-to-Everything)」と、協調型車両インフラシステム「CVIS」です。
車だけではなく、道路や街も高度なセンサーと通信手段を備えた「スマート道路」に進化させ、車と道路が一体となって自動運転システムをカバーするという取り組みです。
現在の自動運転技術は、カメラやミリ波レーダー、LiDAR(ライダー、レーザー光によるセンサー)によって周囲の状況を認識するものですが、車から離れた場所や障害物の向こうに何があるかまでは検出することはできません。しかし、この仕組みが実現すれば、より広い範囲の情報をスマート道路が認識し、車にデータを提供することができます。そして、車の高機能化だけでは達成できなかったハイレベルで安全な自動運転が実現することができます。
このCVISで世界をリードするのが中国です。スマート道路の建設という大規模なインフラ投資にも積極的に取り組む姿勢を見せています。全国政治協商会議経済委員会の苗圩(ミャオ・ウェイ)副主任は2022年3月に開催された中国EV百人会フォーラムにおいて、次のように発言しています。
「(自動運転技術は)テスラを含め、いずれも自動車単体のスマート化で進められているが、V2Xの重要性がより強く認識されるようになった。車単体ではレベル2の自動運転(特定条件下での自動運転、ドライバーによる監視が条件)は可能でも、レベル3(条件付き自動運転、車による監視)」は難しい。レベル4(特定条件下における完全自動運転)はコンピューティングパワーや電力消費の面で自動車だけで実現は不可能だ。そのため、計算量の一部は車ではなく、道路側が受け持つ必要がある。エッジコンピューティング、CVISが必要なのだ」
苗圩氏は中国政府の工業情報化部の部長(閣僚に相当)を務めた人物であり、この発言は中国政府の方向性を示すものです。すでにスマート道路の標準策定作業が始まるなど、中国はCVISへの取り組みを加速させています。
すでに社会実装が始まった都市もあります。湖南省衡陽市は自動運転スタートアップの蘑菇車聯(Mogo Auto)と戦略提携を交わし、スマート道路の整備を始めました。現時点で38kmの道路がスマート化を完了しており、自動運転バスやロボタクシー、自動運転清掃車、無人パトロール車などの実証実験が行われています。
衡陽市はスマートシティ化に積極的な都市として知られており、先端技術を活用した治安対策に取り組んでいます。CVISによる自動運転技術の投入でも無人パトカー、無人パトロール車がいち早く導入されました。無人パトロール車とは台車サイズの小さな車に、カメラ付きの筒を立てたような形状をしています。夜間や大雨など警察官のパトロールがしづらい状況でも使えるのが、無人パトロール車の強みとのこと。中国の都市といえば、いたるところに監視カメラが設置されていますが、それでも死角はあります。その隙間を補う役目が期待されています。
パートナーの蘑菇車聯はもともと車単体での自動運転技術を開発していましたが、自動運転実現にはCVISが不可欠だと判断し、地方政府向けにソリューションを販売するB2G(Business to Government、政府向けビジネス)に転向しました。「自動運転の冬」の最中でも高く評価され、今年5月には5億8,000万元(約1,160億円)もの投資獲得に成功しました。