2023年1月4日(現地時間)、米国ラスベガスで開催されたハイテク技術の見本市「CES2023(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー2023)」で、BMWグループ(BMW Group)が近未来型ミドルセダンコンセプト『i-Vision Dee』を発表しました。車名の『Dee』は、“Digital Emotional Experience(デジタル・エモーショナル・エクスペリエンス)”を意味し、徹底的に無駄をそぎ落としたボディは、最大で32色に変化させられるという機能を備えています。“クルマを自分色に染める”というカスタマイズ的な要素と、デジタル化を融合させた面白い試みと言えるでしょう。そこで今回は、自動車カスタマイズという視点からi-Vision Deeの楽しさと先進性を掘り下げます。
「ほんの数秒」でクルマのカラーリングを自由に変更。BMWが提案した気分や場所に合わせて「カスタマイズ」を楽しむ近未来カー (※写真はイメージです/PIXTA)

クルマで自分らしさを表現する手法について

では、具体的にクルマで自分らしさを表現する手法とはなんでしょうか? クルマのカスタマイズ手法としては、見た目を変えるためにエアロパーツと呼ばれる外装部品の装着、タイヤ&ホイールの交換、ボディ外板色の塗り替え、ラッピングバスのようにフィルムを貼る、さらに排気音を変えるためにマフラーの交換、内装のイメージを変えるためにステアリングやシートの交換と、例を挙げればきりがありませんが、何かしら部品を交換したり、加工を加えたりすることが一般的です。

 

クルマに興味がない人にはイメージが難しいかもしれませんが、簡単に言えばスマートフォンにカバーを付けて見た目を変えるといったものです。ただ、スマートフォンに比べて大きく、高価なクルマなので、カバーのように簡単に着せ替えができないという側面もあり、マニアックな世界というのは自動車が誕生してから今まで変わっていません。

革新的なカスタマイズ手法を提案したBMW

写真:BMW Group
写真:BMW Group

 

冒頭のBMW『i-Vision Dee』に話を戻します。『i-Vision Dee』は、CES2022で発表した“iX Flow”という技術を進化させ、ボディ表面に240枚の電子ペーパーフィルムを貼り付け、最大32色まで瞬時に色を変化させられるという最先端の技術を盛り込んでいます。それもボディ全体を1色に変化させることはもちろん、パネルごとに色を変えることもできるので、さまざまなデザインを表現することができます。

 

写真:BMW Group
写真:BMW Group

 

さらにフロントガラス全体に情報を投影する斬新なヘッドアップディスプレイも採用。タッチ操作に対応した『BMW Mixed Reality Slider』により、ガラスに情報を表示できるという画期的なものです。表示するコンテンツは、ARコンテンツ、拡張現実投影、仮想世界仮想世界の情報まで5段階の切り替えが可能となっています。そのためインテリアは、メーターなどもなく、非常にすっきりとしたものになっています。

 

写真:BMW Group
写真:BMW Group

 

そのほかにもキーを持った状態でクルマに近づくと、サイドウインドウに自身で設定したアバターが表示され、ドアが自動で開くシステムも搭載されているそうです。

 

この『i-Vision Dee』が搭載しているさまざまな機能は、まさにクルマを自分色に染めるというカスタマイズの提案でもあります。従来であれば、クルマのボディカラーを変えるには、塗装をするなり、フィルムを貼り込むなり、大がかりな作業が必要でした。また、一度施工すれば簡単に元に戻せませんでした。

 

しかし、『i-Vision Dee』なら、スマートフォンの待ち受け画面を変えるようにデジタルの力で、気分に合わせてクルマの色を変えられます。また、メーターの表示方式などもフロントガラス全体をヘッドアップディスプレイにすることで自由自在です。

 

徹底的にシンプル化されたエクステリア&インテリアは、逆に無限のカスタマイズが可能という、今までとはまったく異なった発想のうえで成り立っています。エンジンから電気自動車へ、100年に1度の大変革期と言われている自動車業界ですが、それはデザインやカスタマイズの領域でも同様です。今までならパーツを変えたり、加工を施したりしないと実現不可能だったカスタマイズが、デジタル技術によって身近になる可能性を秘めています。

 

BMWの『i-Vision Dee』は、ただのコンセプトカーではなく、そう遠くない2025年頃に市場に投入される可能性があります。もし、市販されれば、クルマのカスタマイズというニッチなジャンルが身近になり、テックによって簡単にクルマで“自分らしさ”を表現できる時代になるかもしれませんね!

 

 

三木 宏章
モータージャーナリスト