新薬を開発する「創薬」は研究着手から販売に至るまで長い年月がかかることが一般的であり、その成功率は2〜3万分の1といわれています。そのようななか、研究プロセスを自動化し、ビッグデータの分析を正確に行える「AI」を活用することで、創薬分野における既存課題が解決できるのではないか、という可能性に期待が集まっています。「創薬×AI」が今後発展することにより、私たちが受けられる医療はどのように変わるのでしょうか?
人工知能が難病の新薬を開発?AI活用で変わる「創薬の世界」 (※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

「創薬」の世界はハイリスク・ローリターン

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

なぜ、創薬においてAIの活用が期待されているのでしょう。その大きな理由のひとつに、創薬にかかる長い年月と莫大なコストが挙げられます。創薬は主に以下のような手順で行われます。

 

①ある疾患をターゲットに定める

②薬の候補となる物質を探し出す

③薬として利用できるように合成する(スクリーニング)

④動物実験などで、その化合物の効果や安全性を確かめる(非臨床試験)

⑤治験などで、人間に対する効果や安全性を確かめる(臨床試験)

⑥新薬発売のための申請を行い、承認を得る

 

①~④の非臨床試験までに8〜10年、⑤の臨床試験に6〜8年、⑥に1〜2年と、すべてのプロセスを合わせて15年以上かかるのが一般的です。また、ここまでに1,000億円を超える開発費がかかることも珍しくありません。

 

もちろん、開発の結果、新薬を発売することで多大な投資を回収できるケースもあります。そうはいっても、見つけ出した新薬候補が実際に医薬品として発売される確率は、2〜3万分の1といわれています。製薬会社にとって「圧倒的ハイリスク」でリターンの望みは薄い――これが創薬の世界です。

 

ここで、上記の創薬プロセスにおける問題点を整理してみましょう。

 

1.効率性

まず、①において新薬の可能性がある物質を探し出す際、候補は数万種類に及びます。そのなかから有望だと考えられるものを絞り込んだあとも、その1つひとつに対し、実際に効果があるのかを実験する必要があります。この有望な物質を絞り込む作業は、研究者の経験や勘に頼るところが大きく、とても効率性に課題があります。

 

2.成功率

近年では、創薬の成功率が低下しているという問題も浮上しています。 厚生労働省の資料によると、創薬成功率は2000〜2004年に約1万3,000件に1件だったのに対し、2015〜2019年は約2万3,000件に1件と、成功率はこの15年で半分近く減少しました。

 

成功率低下の要因としては、創薬対象が「未解決の疾患」にシフトしていることが挙げられます。創薬の難易度が上がっているのです。その結果、研究開発費が増大を続ける一方で、承認数は横ばいのまま。新薬1種あたりの開発コストも上昇し、最終的には医療費の増加にもつながっています。

 

こうしたなか、上記の課題を解消し、製薬企業の研究や開発のプロセスを大幅に改善する可能性があるとして期待されているのが「AI創薬」です。