近年、目覚ましい進化を遂げているAIですが、医療分野においてもそのさらなる活躍が期待されています。厚生労働省が2017年から定期的に開催している「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」では、①ゲノム医療、②画像診断支援、③診断・治療支援、④医薬品開発、⑤介護・認知症、⑥手術支援、を6つの重点領域として選定しています。現在、その中でも実際の医療現場で最も活用されているのが「画像診断支援」です。
AIが肺がん診断を変革する?胸部レントゲン写真の「AI読影」による早期発見への希望 (※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

これまでの「画像診断」における診断精度

「画像診断」とは、体内の様子や病気を画像化して診断する検査方法のことで、X線(レントゲン)検査やCT検査、MRI検査などがこれに当たります。画像診断では通常、医師が画像を直接見て病気を診断しますが、医師の経験による診断精度の差が問題視されてきました。例えば、胸部X線検査で肺がんの診断を行う場合、画像診断を専門とする「放射線科医」や、肺がん診療を専門とする「呼吸器内科医・呼吸器外科医」と、それ以外の医師では肺がんの検出精度にどうしても差が生じてしまいます。

「胸部X線検査」の精度が上がることの重要性

悪性新生物(がん)は日本人の死因の1位であり、その中でも肺がんによる死亡者数が最も多くなっています。主ながんの罹患数(2019年)は、男性では前立腺がんが1位、胃がんが2位、大腸がんが3位、肺がんが4位となっています。女性では乳がんが1位、大腸がんが2位、肺がんが3位、胃がんが4位です。

 

また、がんによる死亡数(2021年)では、男性では肺がんが1位、大腸がんが2位、胃がんが3位となっています。女性では大腸がんが1位、肺がんが2位、膵臓がんが3位です。男女合算では、肺がんが死亡数の1位となっています(厚生労働省と国立がん研究センター「がん統計」より)。

 

つまり、肺がんは男女ともに罹患数に対しての死亡数が多く、予後不良ながんであることがわかります。肺がんは早期発見すれば手術によって治療することが可能ですが、進行してしまうと抗がん剤などで延命することはできても、治癒することは難しくなります。そのため、早期発見が非常に重要となり、初期の段階で行う胸部X線検査の精度が上がれば、肺がんの早期発見率は格段に上がることが期待されています。

胸部X線検査の読影は難しい

肺がん診断には胸部X線検査やCT検査が必須です。一般的な流れとしては、まず胸部X線検査を行い、異常が疑われる場合にはCT検査が行われます。特に40歳以上のすべての人に対しては、胸部X線検査を行うのが基本です。

 

しかし、肺がん診断において基本となる胸部X線画像を正確に読影することは、一見簡単に思えるかもしれませんが、実際には非常に難しいものです。CT検査では、肺を細かくスライスした断面の画像が得られるため細部まで確認することができますが、X線検査の画像は肺を正面から見ただけの画像になります。そして肺の中は、血管や気管、肋骨などの様々な影が重なり合っているため、肺がんを見つけることは容易ではありません。

 

そのため、胸部X線写真の読影は非常に難しく、読影医による診断精度に差が生じてしまうのです。この診断精度の差を埋めるため、通常、肺がん検診では第一読影医と第二読影医によるダブルチェック方式を採用し、さらに肺がん検診の読影医には特定の条件を設けることで、診断の精度管理が行われています。