賃貸経営を行う際には、原状回復特約を適切に設けているか否かによって、オーナーが負担するべき修繕費用が変わります。そこで本記事では、原状回復特約が有効と認められる要件や、契約書に記載すべき内容を解説します。修繕費用を抑えつつ、入居者とのトラブルを避けて健全に運用したい方は、ぜひ参考にしてください。
【不動産投資】不動産オーナーが知るべき「原状回復特約」とは? (※写真はイメージです/PIXTA)

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原状回復とは?

原状回復とは、賃貸契約を終了して借主が退去するときに、物件の室内外などを契約時の状態に戻すことを言います。たとえば壁紙やフローリングなどを張り替える行為が、原状回復のひとつです。

 

実際には、原状回復の工事を借主が自ら行うことはなく、貸主であるオーナーが原状回復をし、その費用を借主に請求します。

 

ただし、劣化した設備や内装のすべてを借主の負担で修復するものではありません。原則として、経年劣化によるものは貸主負担、故意・過失によるものは借主負担となります。

賃貸契約の原状回復特約とは

原状回復特約とは、退去時の原状回復にかかる費用の負担について取り決めする特約です。

 

原則では経年劣化や自然損耗によるものは貸主負担ですが、契約書に特約を明記することによって、費用負担を個別に定めることができます。例として挙げられるのは、ハウスクリーニングの費用を借主負担とする特約などです。

 

国土交通省から発表された「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改定版)」によると、強行法規に反しなければ特約を設けることは自由であり、一定の修繕等の義務を借主に負わせることも可能とされています。

原状回復特約が有効と認められる要件

原状回復特約は借主・貸主の双方が納得していれば、自由に定められます。ただし借主に不利な内容は、無条件では認められません。

 

特約を有効とするには、以下の要件を満たしている必要があります。

 

  • 特約を設ける必要性がある
  • 暴利的ではない
  • 特約の内容を借主が認識している

 

これらは、過去の裁判例をもとに国土交通省が示している要件*です。

 

*出典:国土交通省『「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)のQ&A』

 

特約の必要性については、客観的で合理的な理由が求められます。また、借主に不利な内容である場合、通常の原状回復義務を超えた特約であることを借主が認識していなければなりません。

 

これらの要件を満たすために、具体的に注意すべきポイントを、次の項目で見ていきましょう。

原状回復特約で記載・説明すべき内容

前述した通り、原状回復特約が有効であると認められるには、国土交通省が示す要件を満たさなければなりません。要件を満たすには、次の内容を特約として明記した上で、契約時に説明する必要があります。

 

  • 貸主・借主の双方の負担範囲
  • 借主の負担額の目安
  • 通常の原状回復義務を超えた特約であること
  • 借主の負担が正当な範囲内であること

 

ひとつずつ解説していきます。

 

貸主・借主の双方の負担範囲

賃貸物件の破損や消耗には、経年劣化や通常使用によるもののほか、故意・過失によるものが挙げられます。このうち、借主側が負担すべき範囲がどこまでかを明確にしておく必要があります。

 

特にトラブルに発展しやすいのは、通常使用によるものか、故意・過失によるものかといった判断です。そのため各内装や設備について、借主負担となる状態を具体的に明記しておきましょう。

 

たとえばキッチン・浴室の経年劣化や畳の日焼けなどは、通常の生活で発生するものであるため、貸主がリフォーム費用を負担する場合が多いです。一方、同じく畳であっても、タバコによる焼け焦げは故意・過失として借主に請求できます。

 

そのほか、借主負担としたい修繕内容は詳細に定めておくことによって、退去時にトラブルを防ぎやすくなります。

 

借主の負担額の目安

原状回復特約は、双方の合意があれば基本的には自由に内容を設定できるものです。

 

ただし負担する金額によっては、賃貸契約を結ぶか否かを決めるポイントにもなり得るため、事前に明示しておくべきとされています。

 

また退去時のトラブルを避けるためにも、借主負担となる修繕費用の目安をあらかじめ記載しておくことが望ましいでしょう。

 

通常の原状回復義務を超えた特約であること

通常使用による損耗や経年変化に対する修繕費用は、原則として貸主負担となることが国のガイドラインで定められています。

 

そのため通常の損耗や経年変化についての原状回復義務を借主に負わせるのは、本来の義務を超えているといえるでしょう。

 

特約として設定する場合は、その旨を契約書に明記するとともに十分に説明し、借主から合意を得なければなりません。

 

借主の負担が正当な範囲内であること

特約で負担範囲や負担額を明記している場合であっても、上限なく借主に請求できるわけではありません。

 

消費者契約法の第9条1項1号により、平均的な損害額を超えるものは無効であるとされています*。そのため相場を提示し、妥当な金額であることを納得してもらう必要があります。

 

*参考:国土交通省『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改定版)』

 

また借主に不利な内容も無効となるため、特約を設ける必要性について、客観的かつ合理的な理由を伝えなければなりません。

 

たとえば周辺相場よりも安い家賃であることを条件として、原状回復費用を借主負担とする事例などがあります。必ずしも有効であるとは言えませんが、理由のひとつとして考えられるでしょう。

まとめ

賃貸契約の原状回復特約は、貸主・借主の合意のもとで自由に設定することが可能です。しかし借主が一方的に不利となる内容は認められないため、特約を設ける必要性や負担範囲などを契約書に明記する必要があります。

 

初めての賃貸経営で不安がある場合は、運用を事業者に任せることも選択肢のひとつです。

 

たとえば不動産クラウドファンディングでは、運営事業者が契約や運用を行うため、退去時にも投資家が原状回復を行うことはありません。一口1万円から始められるため、まずは不動産クラウドファンディングで投資経験を積んでみるのも良いでしょう。

 

 

執筆:悠木 まちゃ

ライター・編集者

宅建士・FP3級の資格保有。国立校の建築学科を卒業後、ハウスメーカーに勤務し、営業・設計職を担当。新築戸建て住宅のほか、事務所建築や賃貸アパートの設計などを手掛ける。

その後、2019年よりフリーライター・編集者として活動。実務経験を活かし、不動産・金融系の分野を中心に記事執筆から編集まで行う。多数の企業メディアで編集を担当するほか、ライター向けオンラインサロンの添削講師としても活動している。

 

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