「iBuyer」というビジネスモデルが代名詞の米国のテックベンチャー、Opendoor社が大幅減速となり話題となっています。その理由を探っていきます。

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米ベンチャーOpendoor社、大幅減速

2023年2月23日、アメリカの不動産テック企業であるOpendoor社が四半期および通年の決算を発表し、その減速ぶりに注目が集まっています。

 

発表によると、同社の売上は年ベースでこそ前年比94%増(156億ドル)と成長しているように見えるものの、四半期ベースでは前年比25%減(29億ドル)と直近の減速ぶりが目立ちます。利益率も年ベースでは前年の9.4%から4.2%へ、四半期ベースでは7.1%から2.5%へと低下。四半期の総利益は7,100万ドルに留まり、住宅調達のための借り入れ利息である1億1,300万ドルにも足りていません。同社はこの四半期、販売・マーケティング費用に1億9,400万ドル、販管費に2,300万ドル、技術/製品開発費に4,800万ドルを支出しており、先の利息の支払いを含めると3億9,900万ドルの純損失を計上しています。

 

こうした状況を受け、同社の株価は前年比-78.5%(3月7日現在)という危機的な数字にまで下落しています。

代名詞とも言われるビジネスモデル「iBuyer」

利上げによる不動産市場の停滞により、多くの不動産会社がダメージを被ったのは事実ですが、Opendoorほどの大打撃を受けている企業は多くありません。皮肉なことに、同社の躍進のきっかけになったユニークなビジネうモデルが仇となっています。

 

そのビジネスモデルとは、同社が生み出し、現在では多く企業がそのエッセンスを取り入れている「iBuyer」と呼ばれる仕組みです。従来の不動産ビジネスの中心は家を売りたい人と買いたい人をつなぐ仲介ビジネスでした。それに対し、「iBuyer」では、売りたい人からまず自分たちが買ってその後に別の人に売るという転売ビジネスです。売り手がオンライン上で査定申し込みすると、諸条件を元にAIが買い取り金額を掲示。売り手が納得すれば、最短2日、内見すらなしに売買が成立するという手間のなさで利用者を増やしました。

 

不動産企業にとって、このモデルの利点は主に2つあります。在庫を独占できることと、利幅を大きくできることです。仲介の場合、1つの物件の売買に複数のエージェントが関わるケースがほとんどです。特に制約可能性の高い条件の良い物件には多くのエージェントが群がり、そのなかでより早く、より良い条件の取引をまとめたエージェントだけが仲介料を得られます。一方、「iBuyer」の場合は、物件をまず買ってしまうため、他社のエージェントに出し抜かれる心配がありません。また、仲介の場合の報酬は販売手数料として発生しますが、この料金は販売金額の6%程度と相場が決まっており、それを大きく上回る報酬を得ることは困難です。対して「iBuyer」では、一度買った物件に値を付け直して販売するので、理屈上は利幅に制限がありません。加えて、「iBuyer」は即買い取る代わりに、仲介経由の売買相場よりもやや安めの価格を提示するため、なおさら利益が出やすい構造でした。

異次元緩和の恩恵を受け成長も利上げには対応できず

この2つの利点は、パンデミック下の異次元緩和と好相性でした。在庫を持つ、つまり仕入れるということは、そのための費用が発生します。単価の高い商材ですから、自己資金で用意できる数は知れています。ビジネスをスピーディーに成長させられるだけの在庫数を確保するためには借り入れが必要ですが、超低金利の環境がそのリスクを大幅に減らしました。金余りのなかで投資マネーの一部が不動産市場に流れ込んだことも追い風となりました。不動産価格が短期間に大きく上昇したことで、もともと大きめな利幅はさらに大きくなりました。

 

しかし、利上げ局面に入り、すべてが変わってしまいました。仕入れのための借り入れコストは大幅に増大。不動産価格は以前ほどのペースで上昇せず、販売ペースも鈍りました。在庫が動きにくく、動いても利幅は小さい。待っている間にも利息だけが発生する。結果、同社の業績は冒頭でもご紹介したように著しく悪化しました。

 

この件から、一般投資家が得られる教訓は、目利きをしっかりしましょうということです。利上げ局面でも、価格が上昇し続けているエリアや物件はたくさんあります。にもかかわらず、Opendoorの在庫物件の販売状況が芳しくなかったんですから、同社のAIの目利きは精度が低かったと言わざるを得ません。利上げ局面での不動産市場についてはデータがまだ多くなく、学習不足だったであろうことを考えれば酷な評価かもしれませんが。世の中が大きく変わるタイミングでは、AI任せではなく人間が考えるほうが良いかも知れません。

 

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本記事は、富裕層のためのウェブマガジン「賢者の投資術」(Powerd by OPEN HOUSE)にて公開されたコラムを、GGO編集部にて再編集したものです。