(※画像はイメージです/PIXTA)

遺言書は、自分がこの世を去った後に財産等をめぐって残された家族が揉めるのを防止し、相続の手続きをスムーズにするために有益なものです。ただし、書くべき事項や方式は厳格に決まっており、正しく作成されないと無効となってしまいます。そこで、本記事では、相続および遺言の手続きに関する実務を数多く担当してきた行政書士・鎌田昴伺氏と司法書士・吉村隆司氏が、遺言書の書き方について種類ごとにわかりやすく解説します。

目次
はじめに
◆遺言とは
◆遺言で決められる事項は法定されている
◆遺言書の種類
1. 公正証書遺言
1.1. 公正証書遺言とは
1.2. 公正証書遺言の手続き
2. 自筆証書遺言
2.1. 自筆証書遺言とは
2.2. 自筆証書遺言の手続き
3. 法務局における遺言書の保管制度
4. 遺言執行者の必要性
まとめ

はじめに

はじめに
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◆遺言とは

人が死亡することにより相続が開始され、その遺産は基本的には法定相続人が受け継ぐことになります。しかし、遺言書を遺しておくことで、本人(被相続人)の意思によって遺産の引き継ぎ方を決めることができます。

 

もし、遺言書がなかったらどうなるでしょうか。遺産の引き継ぎは、以下のように決めることになります。

 

  • 民法上の法定相続分の通りに遺産を分ける
  • 相続人全員の協議(遺産分割協議)により、相続人同士で遺産の分け方を決定する

 

後者の場合、遺産分割協議がうまくまとまれば問題なく遺産を分けることができます。しかし、昨今、核家族化の進展や権利意識の高揚等により、想定外に協議がまとまらず紛争に至るケースが増加しています。

 

また、被相続人の思いが反映されずに財産の承継が行われてしまうことが多々あります。

 

だからこそ、遺言を「遺言書」という形で残しておくことが有効なのです。

 

◆遺言で決められる事項は法定されている

遺言書に記載すれば全てが実現できるとは限りません。遺言でなし得る事項は法で定められており、以下の事項に限られます。

 

【遺言でなし得る事項】

  • 財産の処分
  • 相続人の廃除・廃除取消
  • 子の認知
  • 未成年後見人・未成年後見監督人の指定
  • 相続分の指定・その委託
  • 遺産分割方法の指定・その委託
  • 遺産分割の禁止
  • 相続人の担保責任の定め
  • 遺言執行者の指定・委託
  • 遺留分侵害額の負担割合

 

これら以外の事項について遺言書に記載しても法的には効力がありませんので、注意が必要です。

 

ただし、遺言事項以外に「相続人への感謝などを記載する」「遺言の趣旨を補足する」「遺留分を行使しないような希望を依頼する」「遺言者自身の葬儀方法の希望を記載する」などの遺言書のニュアンスを記載することも可能です。

 

これを「付言事項」といいます。付言事項をうまく活用すれば、遺言事項ではカバーできない人間関係などについても配慮することが可能となり、より遺言書が実現性の高いものとなるでしょう。

 

【付言事項の文例】

「私の心残りは、障害を持つ長女のことです。妻も年老いており、そう長くは長女の面倒をみるのは難しいだろうと思います。そこで、長男と次男は、この遺言で、法律で定められた割合よりも多い財産を相続させることにしましたので、妹である長女の面倒をみて欲しいと希望します。」

 

◆遺言書の種類

遺言書の種類で重要なのは、以下の4つです。

 

  1. 公正証書遺言
  2. 自筆証書遺言
  3. 法務局における遺言書の保管制度
  4. 秘密証書遺言

 

なお、これらのうち「4. 秘密証書遺言」はほとんど利用されていません。秘密証書遺言は、遺言者が公証人及び証人二名以上に遺言書の存在の証明をしてもらう遺言です。公証人、証人相続人を含め、本人以外誰も生前に内容を見ることができない(秘密にしておく)ので、方式不備により無効になる危険性が高いのです。

 

本人の意思をきちんと確認・実現するためには、「1. 公正証書遺言」が有効であり、かつ、最も利用されている遺言といえます。また、遺言書は、本人の最終的な意思の実現ですが、ある相続人に偏った承継だと他の相続人の遺留分を害することとなり、将来的な紛争の可能性があるので、留意する必要があります。

 

以下、「1. 公正証書遺言」「2. 自筆証書遺言」「3. 法務局における遺言書の保管制度」の順に解説します。

1. 公正証書遺言

公正証書遺言
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1.1. 公正証書遺言とは

公正証書遺言とは、公証役場にて、公証人が、証人2名以上の立会いのもと作成する遺言です。

 

遺言書の作成には判断能力が必要ですので、公証人は、遺言者の判断能力を厳格に求めます。

 

公正証書遺言のメリットは、無効になるリスクがないことです。なぜなら、作成の段階で公証人が関与するとともに、証人が2人以上立ち会うことが要求されているからです。

 

また、法律の素人である遺言者が自筆で書く必要がありません。さらに、遺言書の原本は公証役場に保管されることになるので紛失する危険性もありません。しかも、相続開始発生後は、通常1~2ヵ月ほどかかる家庭裁判所における「検認」の手続きが不要で、速やかな遺言の執行が可能となります。

 

【図表】自筆証書遺言と公正証書遺言の比較(イメージ)

 

あえて「デメリット」を挙げるとすると、公証人に支払う手数料が必要となるので、自筆証書遺言と比べて割高となることです。しかし、これも、後で無効とされてしまうリスクがゼロになることを考慮すれば、顕著なデメリットとはいえません。

 

1.2. 公正証書遺言の手続き

公証役場で公証人が関与して遺言書を作成します。このとき、証人が2名以上必要となります。


遺言書の文面が作成されたら、遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認したうえで、各自これに署名し、押印します。

 

なお、遺言者が高齢で、判断能力はしっかりしているが身体的な障害により字を書くことができない場合、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる制度があります。

 

公正証書で保管される「原本」、遺言者に交付される「正本」「謄本」が作成されます。「正本」は原本と同じ効力をもち、遺言に基づく相続財産の名義変更等の際に利用されます。「謄本」は遺言書の存在と内容を確認する資料となります。

2. 自筆証書遺言

自筆証書遺言
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2.1. 自筆証書遺言とは

自筆証書遺言は、遺言者が自筆で作成する遺言です。その性質上、遺言者本人が自力で字を書けることが条件となります。

 

遺言者が自分の意思のみで手軽に作成でき、遺言書の書き直しも容易にできます。

 

しかし、その反面、デメリットが大きい制度です。すなわち、遺言内容の改ざん・破棄などの恐れもあり、本当に本人が書いたのか、あるいは内容が本人の意思に基づいているかが争いになる可能性があります。

 

また、厳格な書式が要求されるのに加え、専門家が作成に関わらなくてもよいので、遺言書自体の効力が全くなくなってしまうおそれがあります。

 

さらに、相続発生後、家庭裁判所の検認が必要であり、検認には相続人全員が立ち会わなければならないので、速やかな執行が困難になります。

 

しかも、相続人が自筆証書遺言の存在を知らずに遺産分割を行ってしまうリスクがあります。

 

2.2. 自筆証書遺言の手続き

自筆証書遺言は、遺言者が「全文」、「日付」及び「氏名」を自書し、これに「押印」をしなければなりません。また、数葉にわたる場合は第三者による偽造を防止するために「契印」をする必要があります。

 

以前は、「財産目録」もすべて手書きしなければなりませんでした。しかし、これではあまりに労力がかかりすぎるということで、2019年に法改正が行われ、財産目録についてはパソコンで作成したもの等を添付し、その目録の毎ページに署名押印すれば足りることになりました。

3. 法務局における遺言書の保管制度

法務局における遺言書の保管制度
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法務局における遺言書の保管制度は、2020年7月から開始されました。

 

制度の内容は、遺言者の申請により、法務局において遺言書(自筆証書遺言)の方式のチェックをしたうえで現物を保管するとともに、その画像情報等を記録しておくというものです。

 

この制度の対象となるのは自筆証書遺言のみであり、公正証書遺言や秘密証書遺言については利用できません。

 

保管を始める時点で内容の適式性、真正性が担保されているので、通常の自筆証書遺言に要求される相続開始後の家庭裁判所への検認は不要です。

 

この制度は、自筆証書遺言の利点を損なうことなく、本人の意思に基づくかどうかが争われるリスクを解消するための方策といえます。

 

遺言書の保管の申請には手数料がかかりますが、1件につき3,900円ですので、公正証書遺言よりも安価な金額で申請ができます。

 

ただし、注意しなければならないのは、チェックが行われるのはあくまでも遺言書が「方式」に則っているかという点のみということです。遺言の内容については一切審査が行われません。したがって、将来的に相続人間で紛争の可能性があっても指摘することなく保管されることになるので、専門家が関与していない当該遺言には留意しなければなりません。

 

また、申請は本人が法務局に出頭して行う必要がありますが、なりすましを防止するために、提示を受けるべき書類は、写真が貼付されたものに限定するなど、厳格な本人確認が要求されます。

4. 遺言執行者の必要性

遺言執行者の必要性
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遺言執行者とは、遺言書の内容を具体的に実現する人をいいます。すなわち、遺言書に書かれている内容、趣旨に沿って、相続財産を管理し、名義変更などの各種の手続きを行います。

 

遺言書においては、遺言執行者を誰に指定するかを決めておくことができます。遺言執行者に特定の資格等は要求されていませんが、弁護士、司法書士、行政書士等、相続の手続きに詳しい公平・中立な専門家を指定しておくことで、遺言の実現が適正かつスムーズに行われる可能性が高くなります。

まとめ

まとめ
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遺言書は、遺言者の意思を最優先に資産承継を行う法律で認められた方法です。また、相続人間の紛争を予防する有効な手段といえます。

 

遺言は、死期が近づいてからするものと思ってらっしゃる方が多いようですが、それは大きな誤解です。 満15歳以上なら何時でもできます。

 

認知症等で判断能力がなくなってしまえば、遺言書は書けなくなります。また、いつ交通事故等不慮の事故に遭うかもわかりません。

 

大切なご家族が将来揉めないよう、ご自身の意思表示をご家族に遺すため、元気なうちに遺言をしておくことをおすすめします。一度遺言書を書いても、その時の状況、家族構成の変化に応じて、何度でも書き直すことができます。

 

残されたご家族のためにも、遺言は、元気なうちに備えとして行っておくべきものです。