「オルタナティブ投資」に乗り出した理由
SAMURAI証券は、なぜ「オルタナティブ投資」に力を入れているのか。
これまでにもいろいろ説明してきましたが、今回は当社の成り立ちを含めてもう少し詳しく説明したいと思います。
私は大学卒業後、Deloitteトーマツ(有限責任監査法人トーマツ)に入り、その後、独立して会計事務所を開設しました。公認会計士試験は大学在学中に合格していました。
その後、投資業における起業を経て、グローバルに金融事業を営むJASDAQ上場企業(当時)の社長を務め、2020年にはその子会社であったSAMURAI証券の社長も兼任するようになりました。
SAMURAI証券は以前から投資型クラウドファンディング(ソーシャルレンディング)事業を行っていましたが、極めて小規模なものでした。今後、会社を成長させていくために何をすべきかを考える中で、投資型クラウドファンディングを含め、より広い枠組みでオルタナティブ投資をとらえ、オルタナティブ投資プラットフォームを事業の柱に据えて注力していくことを決意しました。
一方で、当時の体制では他の主力事業との兼ね合いからオルタナティブ投資プラットフォーム事業のみに注力することは難しかったことから、2021年にSAMURAI証券とSAMURAI ASSET FINANCEをMBOし、現在に至っています。
なぜオルタナティブ投資なのかというと、そもそも当社は証券会社としては新興で、規模も大きくありません。大手を含む他の証券会社と同じ土俵で、株式や社債を扱っても、新味や革新性がなく、当社の独自性、存在意義を見いだすことができないと判断したのです。
それよりも国内で他社が手がけていない分野で、自分たちの力が発揮できること、新しいマーケットを切り拓くことができるのは何かを考えた結果、「オルタナティブ投資」にたどり着きました。
日本でも巨大市場になる「オルタナティブ投資」
第2回で説明したように、アメリカを中心に海外ではオルタナティブ投資の民主化が進んでいます。そうした事例を知って感銘を受け、日本でもオルタナティブ投資を民主化し、機関投資家らプロの投資家だけではなく、広くリテールへ開放することは社会的意義があると考えました。
(「第2回」個人投資家が参入できなかった巨大な市場「オルタナティブ投資」の秘密)
一方で、私が公認会計士であるにもかかわらず、なぜ金融界でオルタナティブ投資に力を入れているのかと疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。これは端的にいうと、このビジネスに大きな魅力と可能性、やりがいを感じているからです。
公認会計士は世の中に大勢います。企業の監査や会計の業務は自分がやらなくても他にたくさんの方々がいます。しかし、日本国内のオルタナティブ投資は新しい市場で、自分たちにしかできない事業です。非常にチャレンジングですし、公認会計士、税理士として培った経験や知識を生かすことができるビジネスです。
ただ、日本ではオルタナティブ投資は機関投資家をはじめプロの投資家の間では一般的ですが、投資経験のない人や経験の浅い個人投資家にはなじみが薄いのが現状です。
実際、オルタナティブ投資は、非上場株式や金銭債権など一般のマーケットに出回らない金融商品のため、日本では個人投資家が手を出しにくい商品です。
しかし、世界では多くの個人投資家がオルタナティブ商品に投資しています。特にアメリカでは一般投資家に浸透しています。機関投資家や富裕層が投資している実績のあるオルタナティブアセットを小口化し、一般投資家に販売するデジタル投資プラットフォームを運営する企業が多く存在します。
代表的なのがYieldstreet(イールドストリート)やCroudstreet(クラウドストリート)です。オルタナティブ投資プラットフォームを通じて、多額のリテールマネーが流入し、巨大な市場を形成しています。
私たちは世界的に広がるオルタナティブ投資を日本でも民主化する価値があり、社会的意義があると考えています。
このマーケットで事業を拡大することは、日本の個人投資家にとって大きなメリットがあります。当社にとってもパイオニアとしてビジネスチャンスが大きいと考えています。
少額投資できる「オルタナバンク」の可能性
私は公認会計士、税理士として、これまで多くの富裕層の方々とお付き合いしてきました。
富裕層と一言でいってもさまざまです。資産5億円以上になると、プライベートバンカー(PB)がつき、オルタナティブ商品を含む世界中のさまざまなアセットに投資しています。
一方、そこまでの資産規模ではないものの、資産運用をきちんと考えている個人投資家も多くいらっしゃいます。そういう方々と話をすると、PBがいないため、海外のアセットにアクセスしたくても難しいとおっしゃいます。仮に海外のアセットに投資の機会があったとしても、ミニマムロットが1000万~2000万円になり、現実的には投資が簡単でありません。最低投資金額が大きいため、興味があっても投資できないのが実情です。
実際、そうした投資家を顧客に抱えるIFA(インデペンデント フィナンシャル アドバイザー)の方々に聞いても、多くの個人投資家が上場株式や投資信託、債券などの「伝統的資産」と呼ばれる金融商品以外の商品を探しているとおっしゃいます。ワンロット100万円単位の魅力的なオルタナティブ商品を提供できれば、ニーズは確実にあるというのが多くのIFAの方々の意見です。
当社が手がけるオンラインのオルタナティブ投資プラットフォーム「Alterna Bank(オルタナバンク)」は、そうした課題の解決につながり、意義あるビジネスだと、自身の会計士、税理士のキャリアを振り返って強く実感しています。