本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。我々の生活に比較的身近なテクノロジーについての紹介・説明記事や、よりよい体験をもたらすためにテクノロジーを用いているモノやサービスについての情報を発信しています。第4回目は、金融業界において、特にAIが使用されるケースが多いレンディング(融資)ビジネスを取り上げ、今後私たちのお金や暮らしにどのような影響を与えうるのか、分かりやすく解説していきます。
融資は「信用スコア」でAIが決定?「AIレンディング」の広がる可能性 (※写真はイメージです/PIXTA)

与信にAIを用いる「AIレンディング」

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

AIの定義は人や業界によって様々であり、一言ですべてを包括するのは難しいのですが、この記事では「大量のデータを学習して利用し、何かを推論するもの」としてみましょう。

 

レンディングビジネスにおいて、AIを使用するケースが多いのは特に与信管理の部分です。近年のデジタル化により、お金を借りる人に関する様々なデータが収集できるようになり、AIはその分析に用いられています。既存の与信管理よりも多くの情報を参照するため、より正確な与信管理ができると期待されています。

 

海外で進むAIレンディング

 

信用スコアという概念や、AIによる与信の浸透具合など「AIレンディング」の普及は、日本に比べると海外において進んでいます。この理由には、技術的な要素もあると思いますが、レンディングビジネスの市場規模や消費者のプライバシー意識など、その他様々な要因が考えられます。

 

・中国:芝麻信用・WeChat

 

海外事例として特に有名なのは、中国で一般化している信用スコアの芝麻信用(セサミ・クレジット・ジーマ信用)でしょう。これは同国の巨大テック企業であるアリババ傘下のAnt Groupが提供するサービスで、身分や人脈、信用履歴といった計5つの項目を総合し、AIを用いて信用スコアが計算されます。このスコアは基本的には融資の際の与信管理に利用されていますが、スコアがよければ様々な公共サービスが利用しやすくなったり、ビザが取得しやすくなったりと生活のあらゆる面で活用されており、もはや国のインフラと化しています。

 

また、同じく巨大テック企業のTencentが提供しているWeChatも独自のクレジットスコアを算出し始めています。

 

・アメリカ:Upstart, BNPL企業など

 

AIレンディングはアメリカでも盛んに行われています。特に2010年代から台頭してきたレンディングビジネスを営むLending Club, Prosper, OnDeckなどの企業は、AI活用をした与信管理を積極的に行ってきました。

 

近年、特に目立ってきているのはUpstart(アップスタート)という企業です。銀行などの融資を行う金融機関に対して、AIを用いた与信モデルを提供しています。

 

前述の通り、アメリカではFICOスコアが一般的に使われています。しかし、Upstartの創業者は「FICOスコアは昔ながらの方法で計算された不完全なものである」と考え、現在ではAIを用いてより多くの変数を収集し、より正確な与信を可能にしたといいます。同社のWebサイトでは、「Upstartの与信管理を利用すれば、融資の承認率を変えずに貸倒率を75%低下させることができる」と主張しています。

 

また、近年盛んになっているBNPL(Buy Now Pay Later)サービスにおいても、AIを使って与信管理を行う企業が現れています。アメリカ トップクラスのBNPL企業であるAffirmは、自社のテックブログにてAIを用いた与信管理について解説しています。