豊富なパイプラインが強み…バンカーズの「判断基準」
前回、融資型クラウドファンディングサービス「バンカーズ」を運営する株式会社バンカーズが、ファンドの内容について積極的に情報公開を行っていること、そのためにリスク管理を含め極めて周到に案件が組成されていることを紹介した。
※前回記事:「情報格差」をなくしたい…Bankers(バンカーズ)が志す「融資型クラウドファンディング」のあり方
では、同社はそもそもどのように融資先を見つけ、また安全性を担保しているのだろうか。
同社の代表取締役社長である澁谷剛氏は、「豊富なパイプラインを持っていることが、当社の圧倒的な強みの1つです」と胸を張る。
澁谷氏「ファンドを組成するうえで、まずは案件を自由に選べるようなパイプラインをたくさん持つことが重要です。当社には証券や銀行などの金融機関で長年キャリアを積んできた優秀な金融のプロが多数在籍しています。しかもファイナンス部門に長年いた人が多く、彼らしか持ちえないコーポレートファイナンスのネットワークがあるのは大きな強みです。
私自身、証券業界に長年身を置き、主にIPO(新規公開株式)部門でベンチャー支援をしてきたので、ベンチャー関連のCFO(最高財務責任者)を数多く知っています。金融機関とも関係があるので、企業を紹介されるケースも多いです」
そうした幅広いネットワークを通じて入ってくる融資先候補のなかから、実際に案件化するか否かをどのように決めているのだろうか。
澁谷氏「第一に見るのは経営者です。事業を行うことの本質、その事業をなんのために行っているのかを経営者がきちんと理解しているかどうか。
ビジネスですからもちろん収益は大事になりますが、それ以前に人や社会に役立つものでなければなりません。要は経営者が『その事業を通じてどう社会に貢献するのか』というミッションのようなものを持っているかどうかが大事になります」
実際バンカーズでは、経営者の資質に疑問を持ち、融資を断ることも少なくないという。
澁谷氏「ある会社の場合、調べていくと法的にグレーな部分が見えてきました。厳密には違法ではないものの、順法精神に欠けていると判断。経営者の考えや事業に取り組む姿勢が真摯ではないということでお断りしました。そういう経営者はいずれウソをつきますから、投資家から預かった大事な資金を融資できません。
私が長く携わったIPOの審査では、企業に深く入り込み、裏側も全部見ることになるので、企業の実態を見極める目も非常に養われました」
財務状況よりも将来性を重視…バンカーズの「審美眼」
次に見るのは、ビジネスモデルだ。
澁谷氏「スケーラビリティがあるかどうかと、収支のバランスがとれる構造になっているかというビジネスモデルをチェックします。さらに革新性と市場性。マーケットが大きくても、既存のサービスにないものでなければ他社との差別化ができす、成長は望めません」
経営者の人間性やビジネスの将来性は合格点に達したとしても、財務状況に問題を抱えている場合はどうするのだろうか。事実、銀行をはじめ他の金融機関から融資が受けられないために、バンカーズに相談が持ち込まれる案件は少なくない。
澁谷氏「安全性を高めるために、当社では単に不動産担保を取って融資をすることだけではなく、他の債権においてもしっかり返ってくる仕組みをつくっています。
特に注力しているのは、小口で分散した債権をSPC(特別目的会社)に集めるという手法です。債権が同額である場合、仮に100人のうち5人がデフォルトしたとしても、金利10%を取っていれば元本は問題ありません。
そのようにしっかりリスク・リターンがあって、特定の誰かのデフォルトが全体に影響しないよう債権をポートフォリオにして投資家に提供していくという方向性で商品をつくっています」
覚悟がみえた中古車販売会社
最近の具体例として挙げるのが、中古車販売会社との案件だ。同社は新規事業に乗り出す資金手当を検討していた。澁谷社長は、バンカーズとして、同社の与信状況を鑑みた上ではあるが、新規事業の社会性と将来性を評価し、経営者の人間性や能力も高く買った。
澁谷氏「中古車市場全体ではなく、特定のカテゴリーキラーになりたいというのが社長の考えでした。中古車市場全体では勝てないものでも、ニッチなマーケットなら十分に勝算があると。
ヒアリングした戦略も練り込まれていて、例えば、車を日常の必需品と考えて2、3台目がほしいと考える層は、関東であればここ、というようにターゲットを明確に分析。そこで実績を積み上げたうえで、市場を広げていくということです。
日本は人口減少で公共交通機関が縮小していくなかで、足としての車の需要が増えるという社会的要請に応えなければいけないという考えが明確にありました」
相談から約半年をかけて精査、ファンド組成まで持っていった。
澁谷氏「同社の資産を切り分けて、中古車を購入する顧客のリース債権を全部SPCに移し、当社はSPCに融資する仕組みにしました。ただ、それでもリース料が全部回収できるかどうかわからないので、同時に、中古車販売会社が匿名組合員としてSPCに15%出資してもらい、極めて安全なスキームにしました。
借手自身が出資するわけですから、支払い能力の低い顧客にリースして粗利を稼ぐなどの危険性を防ぐことができます」
バンカーズの「ブレない基本理念」
バンカーズには、案件を組成するうえでの基本理念があるという。
澁谷氏「当社のお客さまは借手ではなく、“投資家”だということです。企業に頭を下げて借りてもらう必要はなく、投資家のために仕事をしているのだから、そこを間違えてはいけないという話を社内では常々しています。
投資家にマイナスになるようなことは絶対にしないという点は徹底しており、投資家のために存在しているエージェントであるというのが、当社の基本姿勢です」
そこには澁谷社長の原体験が大きく影響していると述懐する。
澁谷氏「バブル崩壊時に、大手証券会社の法人部で、大口企業に損失補填をしていたことが明るみになり、大きな社会問題になりました。私は当時、個人投資家向けに営業をしていて、損失を抱えるお客さまに顔向けができませんでした。だから絶対に個人の投資家を守れるような金融機関をつくりたいと。それが当社を立ち上げた思いの源流です」