(※写真はイメージです/PIXTA)

近年、新たな金融商品として注目を集める「融資型クラウドファンディング」。個人を中心とした幅広い投資家から資金を集め、金融のスペシャリストたちによる徹底した審査で「銀行が融資したくてもできない業種や業態」に融資を実行し、その利息を投資家に還元するというものです。今回、融資型クラウドファンディングサービス「Bankers(バンカーズ)」を展開する株式会社バンカーズの代表取締役である澁谷剛氏に、「融資型クラウドファンディング」が注目される背景と魅力について伺います。

銀行に代わる金融サービスへ…「バンカーズ」の野望

近年注目されている「融資型クラウドファンディング」は、「ソーシャルレンディング」とも呼ばれる。個人を中心とした幅広い投資家と、借手企業とを結ぶ、新たな投資手法だ。

 

融資型クラウドファンディングの運営事業者は、インターネットを通じて不特定多数の投資家から集めた資金を企業に融資し、企業は返済期限に利息を付けて運営事業者に返済。その後、運営事業者は投資家に元本と利息を分配するというのが基本的な仕組みだ。

 

融資型クラウドファンディングは個人投資家を中心に注目されているが、その理由について、株式会社バンカーズの澁谷剛・代表取締役は次のように説明する。

 

澁谷氏「融資型クラウドファンディングが注目されている背景にあるのは、銀行預金の金利の低さです。大手銀行の定期預金は年0.002%程度(2022年8月25日取材時点)ですので、それならば3~5%の利回りを安定的に得られる融資型クラウドファンディングに投資してみようかと考える人が増えているのです。また、1口1万円からという少額で投資できるのも人気の理由の1つでしょう」

 

株式会社バンカーズ・ホールディング 代表取締役 澁谷 剛氏
株式会社バンカーズ 代表取締役社長 澁谷 剛氏

 

株式会社バンカーズは、2020年12月に融資型クラウドファンディングサービス「Bankers(バンカーズ)」をリリース。澁谷代表は「Bankers(バンカーズ)」を、まさに銀行に代わる金融サービスに育て上げようという大きなビジョンを描いている。

 

澁谷氏「当社の組成するファンドは年間3~5%の利回りを実現しています。これは、当社のスペシャリストたちによる徹底した審査で『銀行が融資したくてもできない業種や業態』への融資を案件化できているためです。投資家から集めた資金を企業に貸して、その利息を投資家に還元する。そういう意味では、銀行と同じ運用手法であり、預金に極めて近い金融サービスであるといえます」

岸田首相の「資産所得倍増計画」が追い風に

銀行に代わる金融サービスとしてBankers(バンカーズ)を育てるうえで「強い追い風になる」として澁谷代表が大きな期待を寄せるのが、岸田文雄首相が掲げる「資産所得倍増計画」と「貯蓄から投資へ」の方針だ。

 

澁谷氏「私が大和証券に入社した1987年頃から、国はずっと『貯蓄から投資へ』を掲げていましたが、まったく実現しませんでした。また、過去の『貯蓄から投資へ』のなかでは具体的な数字が示されたことはありませんでした。

 

しかし現在、岸田首相は本腰を入れているように感じます。今回は、2,000兆円を超える日本の個人金融資産のうちおよそ50%の1,000兆円強が現預金であるということを明示したうえで、具体的な施策を年末に提示するとのことですので、今後預貯金から投資に向かう可能性が極めて高いのではないかと期待しています。

 

たとえば、欧米並みに20%を投資に向けることができれば400兆円の資金が投資に回るわけで、バンカーズとしては預貯金に代わる我々の『融資型クラウドファンディング』をこの領域に見出しているわけです。」
 

欧米並みの20%を投資に向ければ、400兆円の資金が投資に回る
欧米並みの20%を投資に向ければ、400兆円の資金が投資に回る

 

実際、それに呼応するように金融庁もNISA(少額投資非課税制度)の恒久化に向けて本格的に動き出している。澁谷代表が今回の「貯蓄から投資へ」に期待する背景には、長年、金融業界に身を置いてきた自身の経験もあるようだ。

 

澁谷氏「過去に私が投資を身近なものと感じたタイミングが3度あります。最初はNTTやJR、JTなどの公的団体が相次ぎ民営化された1980年代後半。次はネット証券が登場し始めた90年代後半。そして東証マザーズ市場が開設され、ユニークなベンチャー企業が次々と上場するようになった1999年です」

 

そして、澁谷代表はバンカーズの融資型クラウドファンディングサービスが、社会が投資を身近なものと感じる「4番目のタイミング」の起爆剤になりえると自信をみせる。

 

澁谷氏「少なくとも私はそうならなければいけないと思っています。日本では従来からある株や投資信託、社債にお金が流れているという事実があります。したがって、それら既存の金融商品が今回の新たな投資先の受け皿になるのは難しいでしょう。そのようななか、預貯金と従来の金融商品とのあいだを埋められるのが『融資型クラウドファンディング』なのです。

 

リスクは預貯金よりも高いですが、安定した固定金利の実績がある『融資型クラウドファンディング』であれば、預貯金に眠っているお金を動かせる可能性があります。『貯蓄から投資へ』という動きを加速させる最初の触媒になれるのが、当社の『融資型クラウドファンディング』であり、そうならなければいけないという強い思いがあります」

ソーシャルレンディング界に残る不安…どう払拭する?

ただ一方で、リスクはそれほど大きくないとはいえ、不安を抱く投資家も少なくないだろう。ソーシャルレンディングは元本保証がなく、融資した先の企業が倒産するなどして資産が返ってこないケースも相次いでいる。

 

実際、ソーシャルレンディング業界では、これまでに何度か不祥事が起きている。バンカーズが買収したかつての業界トップ、旧SBIソーシャルレンディングも、不祥事で事業撤退に追い込まれた。

 

澁谷氏「不祥事の根本的な原因は1つです。それは、融資先の拡大を急ぐあまり、詐欺的な会社を融資先に紛れ込ませてしまうこと。それだけならまだ問題は小さかったのですが、デフォルトしたことを公表せず、隠してしまった。そして追加融資で損を取り戻そうとした……その結果、大きな不祥事につながったのです。

 

当社は極力デフォルトが発生しないよう綿密にファンドを組成していますが、投資である以上100%安心・安全とは言いきれません。ただ、万が一デフォルトしたときには正直に説明することが大事です。『常に正直であること』が、ソーシャルレンディング業界から不祥事をなくすうえで最も重要なのです」

 

ソーシャルレンディング業界の不安を払拭するためには、「常に正直であること」
ソーシャルレンディング業界の不安を払拭するためには、「常に正直であること」