アメリカがウクライナ難民の臨時滞在許可制度を発表
ロシアによるウクライナ侵攻は依然解決の糸口を見出せず、3月中旬時点で、ウクライナからの国外逃亡者は300万人を超えると報じられています。
現在、隣国のポーランドなどヨーロッパ諸国を中心に、ウクライナからの難民受け入れが行われていますが、アメリカへの亡命を希望するウクライナ人がメキシコ国境に押し寄せるような動きもあります。これを受け、米国政府は「Humanitarian Parole(人道上の理由による臨時入国許可)」として1年間の臨時滞在を許可する制度の準備を進めていることを発表。この制度が実現すれば、アメリカ国内に多くのウクライナ難民が集まることが予想されています。
この難民受け入れによってもたらされるアメリカ国内への影響とは、一体どのようなものでしょうか。
難民の受け入れは先進国にとってプラスになる?
難民問題が語られる際、「各国で公平に分担を」「我が国だけが受け入れるのは不公平だ」といった議論ばかりが紛糾することから、受け入れに伴う負担の方に多くの人の目が行きがちです。実際、難民受け入れによって、財政負担の増加や治安の悪化などの懸念が発生することは考えられます。
しかし、広い観点で見ると、難民受け入れには経済的にポジティブな効果を発揮する場合もあります。国際通貨基金が毎年春と秋に発行する「世界経済見通し」の2020年4月版の第4章では、移民が受け入れ国に与える経済的影響に関する研究が紹介されています。
この研究では、先進国が移民を受け入れる場合、経済成長性と生産性が高まるとされており、先進国、新興市場国、発展途上国が移民を受け入れた場合のそれぞれの国への影響を比較分析すると、先進国の短中期的なGDPと生産性に上昇傾向が見られたことがわかりました。
また、流入移民数が総雇用者数に対する比率で1ポイント増えると、5年目までにGDPが約1%ほど上昇することも言及されています。これは、移民労働者の持つ多様な技能が、国内の労働者が持つ技能とシナジーを生むことで、生産性を高めるからだと分析されています。
かつて、他国の発展に寄与したウクライナ移民
このデータは決して希望的観測というわけではありません。過去に実際、ウクライナからの移民が移住先の国を発展させたような実例も存在しています。
冷戦が終結した1989年から1995年にかけて、ウクライナをはじめとする旧ソビエト連邦民60万人以上がイスラエルに移住したとされており、イスラエルはその5年間で人口が15%近く増加しました。
実はウクライナはテクノロジー人材が充実した国としても知られていますが、当時移住した人々のなかにも、数学や工学の高い素養を持った人材が多数おり、彼らがイスラエルのテクノロジーセクターの職に就いたことで、イスラエルのSTEM分野の競争力が著しく高まったという歴史的経緯があります。世界的なIT先進国として知られるイスラエルですが、その発展に少なからずウクライナ移民が貢献していたと言っても過言ではなさそうです。
とはいえ、アメリカはすでに、世界中から高度なスキルを持つ人材が集まっている国。テクノロジーやSTEM領域でも世界をリードする存在であり、その意味ではウクライナ移民を受け入れることで、そこまで劇的な変化は起こらないかもしれません。
しかし、アメリカは市場規模も大きく多様なニーズがあり、コロナ禍で人材不足によるインフレと物価上昇が起きていることもあわせて考えると、移民が活躍できる場所が存在することは確実です。故郷を追われた難民が才覚を活かせる機会や場所を見つけることが、長期的にはアメリカという国の発展に少なからずつながることも、大いに考えられるかもしれません。