高価・希少な美術品を「移動させる」際に重要なこと
オークションのみならず、転居や寄贈、相続など、高価・希少な美術品を移動させる機会は意外に多いものです。しかし、移動の際、梱包が完全でなければ、作品の破損に繋がってしまいます。美術品の梱包・輸送・保管のプロフェッショナル、武蔵通商株式会社の代表取締役、澤田仁氏は、美術品梱包の重要性について、次のように語っています。
「弊社で取り扱っている主な商品は高額精密機械、美術品、高級楽器、高級家具の4種類です。このうち、美術品の価値を損なわないためには、特に梱包の良し悪しが決め手になります(関連記事:『富裕層必見!「高価な美術品」の価値保全において重要なこと』)。
梱包とは、商品を安全に移動できる状態にすることを指します。作品や品物を保護するために、依頼された商品に合わせてダンボールや、木箱などに詰めていくのです。弊社では、商品の材質や形状、輸送手段、お客様からのご要望にあわせて、『梱包設計』を行っています」
絵画やリトグラフであれば、額縁に入っていたりパネル装丁されたりしているので、形態は長方形や正方形で、厚さも10センチ程のものがほとんどです。しかし、立体的なアート作品となると、出っ張りや傾斜があり、商品ごとに傷つきやすい箇所も異なります。そのため、商品ごとの『梱包設計』が重要になるのです。
「弊社では、多数在籍する美術品梱包輸送技能士や工業包装技能士、包装管理士が、梱包を担当します。
彼らは、依頼に合わせて最適な『梱包設計』を提案し、効率よく無駄のない梱包を行っています。そうすることで輸送や据付などの工程の作業も、より安全に進めることができるのです」
『段取り八分』という言葉のとおり、梱包は事前準備が重要なのだといいます。海外・国内、陸路・空路などで梱包に使用される木箱の材質は異なります。資材の選択、採寸と作業人数など、問題なく段取りできるようになるためには、5年以上研鑽を積んだ『匠の技』が必要になるのです。
長年の経験則から得た、「武蔵通商ならでは」の梱包
「有名スポーツ用品メーカーから、中国国内でアート作品展示のツアーを行うため、現地スタッフが簡単に出し入れできて、且つ作品が損傷しないよう運用できる、利便性の高い梱包収納ボックスを作成して欲しいという依頼を受けました。
梱包するアート作品は、円形のベースにロゴマークやランニングシューズなどがあしらわれたかなり複雑な形状で、現地スタッフが誰でも簡単に梱包できる、ある程度の強度を持つ収納ボックスの作成には苦労しました。
結果、『匠の技』を持つ熟練スタッフが、作品の形状に合わせた、ウレタンフォームやスポンジの緩衝材を、プラスチックダンボール製の輸送ケースとそれがぴったりと収まる木箱を完成させたのです」
梱包のプロセスにも、長年の経験則から得た、武蔵通商ならではのやり方があります。たとえば、緩衝材を箱いっぱいに詰めると、商品に傷がつく可能性があるので、梱包の際は画像(緩衝材の配置例)のように、商品の周りに適度な空間を作ります。輸送の際、商品が圧迫され破損に繋がることを避けるためです。
誰でも簡単に開梱可能で、安全に輸送できることが重要
また、梱包の際は、輸送時のダメージのことだけではなく、開封時のことを想定する必要があります。
「梱包において重要なことは、『商品が希少なものである』という理解のもとに作業を進めることです。輸送に耐えられるかという観点のみならず、商品が開梱され、出し入れを行うシーンを想像し、ケースを開ける留め金にまで配慮するなど、届け先で安全、且つスムーズに運用できる仕様を考えなければいけません。
設計の思案や作品に対する配慮、心遣い、思いやりがないと作業に携わることが難しく、作業員も神経を使う業務であることから、武蔵通商では2名以上で梱包設計、梱包作業を行うようにしています。複数名で考えることにより、ディスカッションと同じで豊富で多様な梱包仕様のアイディアが出てくるからです。
美術品梱包・輸送の現場においては、同業他社と一緒に仕事をすることもあります。そんなとき、他社の作業員の対応および梱包方法に注意を払い、気づいて疑問に思ったらお話を伺う。弊社のスタッフは、熟練の職人であっても、貪欲に勉強を続けています。高い品質を求めていく姿勢が、スタッフの成長につながっているのです」
次回は、美術品の価値保全において重要な3つのシーンのうち、「輸送」について見ていきます。