※写真はイメージです。

2020年の東京五輪に向けて動いている不動産市場。しかし、五輪後どうなるのか、その不透明感は強く、すでに先を見据えた動きもある。ますます勝ち負けの差が出ると予想される収益不動産投資だが、成功の秘訣はどこにあるのか。本連載では、創業130年超の東証一部上場企業であり、これまでに数多くの不動産投資を成功させてきた、株式会社エー・ディー・ワークスの取締役・田路進彦(トウジ ノブヒコ)氏に、「キャッシュフロー」を極大化させる収益不動産投資について伺っていく。第3回目は、「企画・加工の力」がテーマである。

バリューアップは徹底的なデータ収集と「仮説」作りから

前回は、投資家の方にキャッシュフローの良い収益不動産を提供するためには「目利き」の力が必要であることを説明しました。次に必要となるのが、物件のポテンシャルを引き出す「企画・加工」をすること。より具体的に言うなら、ずばり「そのエリアの上限賃料でテナント(住人)が入る」物件へと生まれ変わらせることです。

 

潜在的な収益性を持つにも関わらず、それを活かせていない不動産を見つけたら、どうすればその物件を収益性が高い物件に生まれ変わらせることが出来るかを考えなければなりません。これを私たちは「バリューアップ」と呼んでいます。

 

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バリューアップのために行う第一段階が、徹底的にデータを集め、仮説としてのテナント像を設定すること、いわばターゲットの設定です。次に、過去の物件で蓄積してきたトラッキングデータなども参考に、そのターゲットに合わせた企画を立案し、実際にバリューアップを実施します。

 

データ収集については、近隣の賃料相場など公表されている定量的な情報に加えて、定性的な情報も多く集めます。たとえば、すでに稼働している住居系の物件であれば、過去から現在にいたるテナントの入居申込書があるので、それを分析します。また、そのエリアの有力な賃貸仲介業者からのヒアリングを基に、ターゲットとなるテナントの、年齢や家族構成、勤務先の規模、年収、支払い可能な賃料などを想定します。

 

どういった人が何を求めてこの物件に入居するのか、仮説となるストーリーを描くのです。このようにして、ターゲットを想定したら、そこから逆算して、想定するテナントが必要とする設備、喜ぶと思われる仕様などを導き出して、バリューアップの内容を考えるわけです。

意識すべきは「ROI(投資収益性)」の最大化

私たちが考えるバリューアップとは費用対効果に基づくものであり、やみくもにリノベーションして価値だけを高めるという考え方ではありません。収益不動産を保有している方が、自分自身で物件のリノベーションを企画するときにありがちなのが、自身が住みたい設備や内外装にしてしまうことです。

 

しかし、その投資した金額に見合った家賃設定ができるかと言えば、周辺の賃料相場やターゲットの属性を考えていないと、それは難しいことです。つまり、投資金額に見合う収益を生まない、過剰な投資になってしまうのです。あくまでもバリューアップはエリア・立地の特性や、想定される入居者を起点として、それらと関連付けられた内容を逆算的思考によって考えなければなりません。

 

たとえば、学生や新社会人が多く、かつ都心から離れたエリアでは、必ずしも住宅設備が最新式である必要はありません。住宅設備の改修に何十万円もかけるのではなく、敷金・礼金などの初期費用を抑えられる賃貸条件にすることも効果的な手法です。

 

逆に追加投資をすべき場合の例として、オートロックの設置が挙げられます。ただ、設置には数百万円の費用がかかるため、一般的には実施されないのが実情です。しかし、女性やファミリー層の多いエリアで、世帯数も多い物件であれば、その費用対効果は高まり、実施した方が高稼働につながり、かつ賃料の上昇も望める場合もあります。

エリアやターゲットに合わせたバリューアップの実施例

私たちは、多くの収益不動産を手がけてきた経験から、エリア属性やターゲット属性から、どのようなバリューアップが最適なのかを考えます。その実例をご紹介します。

 

 

5階建てエレベーター無しの団地物件の例

 

私たちが実際に手がけている物件で、世田谷区の高台で高級住宅街に位置する物件があります。この建物は、築35年、いかにも「昭和の団地」という外観で、しかも5階建てにも関わらずエレベーターがありません。これはどう見ても、このエリアに住みたがるターゲットの属性と合っていません。

 

そこで各種法規制や建物の構造を検証したところ、敷地内にエレベーターを増築できることがわかりました。また、その費用を試算してみたところ、上層階の家賃上昇が望め、投資効率も良いため、エレベーター新設工事を行う準備を進めています。加えて、外部の著名なデザイナーを起用して、外観を周辺環境にマッチした瀟洒なデザインへと変更するバリューアップ工事も実施しています。

 

なお、外部デザイナーの起用については常に良いことだとは限りません。このケースでは、物件が世田谷区の高級住宅地という立地属性だったために実施した戦略であり、これがたとえば、学生街や若年層の多いエリアであれば、ハード面ではなく、ソフト面のバリューアップが必要になります。

 

バリューアップ前の外観
バリューアップ前の外観
バリューアップ後の完成予想図
バリューアップ後の完成予想図

 

●ターゲット属性に注目! 駅から遠くても、高賃料を設定できた例

 

もう1例、神奈川県の鷺沼エリアのマンション物件がありました。ここは駅から少し離れていることが難点でした。しかし、ターゲットを調査してみると、ペットとの共生を望む方が多いことが推測できました。ここで「ペット可物件」にしようということは、誰でもすぐに思いつくでしょう。

 

しかし、さらに一歩進めて建物を精査したところ、敷地内に活用されていない土地があり、そこに「ドッグラン」を設けられそうだということわかりました。そこで、ドッグラン付きのマンションとしてバリューアップしたところ、高い人気を得て稼働率が高まり、賃料も周辺相場より高くすることができました。

 

ドッグラン施工例
ドッグラン施工例

 

これまで紹介した建物のハード面でのバリューアップ以外にもソフト面(主に管理面)でのバリューアップも必要に応じて実施しなければなりません。たとえば、テナント対応や、遵法性(避難経路の確保など)の確認などです。

 

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こうした部分への対応が済んだ物件であれば、投資家の方は安心して物件を購入できますし、ローンの支払いの心配をせずに長期間保有できます。不動産投資を検討される際には、物件ごとのソフト面におけるバリューアップも確認してみてください。

 

次回は、物件の価値を維持・向上させる「サポートの力」についてご説明します。

取材・文/椎原 芳貴  撮影/永井 浩 
※本インタビューは、2017年12月25日に収録したものです。