有名作品ともなれば今や数百億円で売買されるケースもある「フランス近代絵画」。本連載では、このフランス近代絵画を中心に取り扱う翠波画廊の代表である髙橋芳郎氏に、フランス近代絵画の魅力、そして「資産」として見た場合の価値などについて、詳しく解説していただいた。最終回は、絵画購入の良きパートナーとなる「画商」という存在について見ていきたい。

インターネットでも気軽に絵画は購入できるが…

実際に絵画をどこで買うかというのは、なかなかの難問です。一昔前の日本では、たいていの絵画は百貨店で売られていました。絵画は安いものではありませんから、百貨店の信用力と集客力がなければ、なかなか売れなかったと言ってもいいかもしれません。しかし、最近は何でもインターネットで買える時代になり、絵画を販売するウェブサイトも多くなっています。私どもの「翠波画廊」でも商品をウェブサイトで見られるようにしています。

 

では家電や書籍のように絵画をインターネットで手軽に買っていいのかといえば、少々問題があります。というのも、一般のお客様はあまりご存じないのですが、有名作家の絵画には贋作が非常に多く、購入に際しては鑑定書など本物であることの証明をもらうことが重要になるからです。

 

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2016年に刊行された『ピカソになりきった男』(キノブックス)は、ピカソやダリ、シャガールやマティス、ルノワールなどの名だたる画家の「新作」を描いて売ってきた、天才贋作画家の自伝です。彼は、しばしば画家の子孫すらも騙したことが書かれています。

絵画を見る目が常に養われる「画商」という仕事

贋作や複製画の多い美術業界ですから、絵画をもとめる際には、いざという時の保証をしてくれる、信頼できる売り手から購入することが最も大切です。だからこそ、絵画の購入元として百貨店の地位が高まったのでしょう。その百貨店がどこから絵画を仕入れているのかといえば、実は百貨店自体が絵画を商品として持っているわけではないのです。ブランド商品などもそうですが、百貨店はお客様の集まる場所を作り、その立地と信用力を提供するビジネスだからです。

 

ですから、百貨店で絵画を販売する場合に実際そこで絵を売っているのは、専門業者である一般の「画廊」の場合がほとんどです。画廊や画商が百貨店に絵画を委託して、販売してもらっていると言い換えることもできるでしょう。百貨店の、委託販売元が街の画廊であるのならば、専門的な知識を持つ画商こそ絵画購入のアドバイザーとして最も適していると言うことができます。贋作や複製画に騙されないように、あるいは質の高い絵とそうでもない絵とを見分けるためには、専門家の意見を聞くことが大切だからです。

 

画商が絵画を見分ける厳しい目を持っているというのは、画商である私が言うと手前味噌のように聞こえてしまいかねません。しかし、作品を委託されて販売しているのとは異なり、画商の場合は自ら何十万円、何百万円という身銭を切って絵画を仕入れています。中には、手持ち資金が少ないために委託販売しか行わない画商もいますが、少なくとも私の場合は全ていったん仕入れてから、画廊の商品として販売しています。

 

この時、もし質の悪い絵画を手に入れると売れずに不良在庫として残ることになります。そうなれば資金繰りが悪化しますから、是が非でも良い商品を仕入れなければならないのです。そのためにも画商は絵画を見る目を厳しく養っています。逆に言えば、見る目のない画商は、遅かれ早かれ廃業して業界から消えていきます。ですから画商の場合、店舗を構えて10年以上活動を続けていることが、何よりの信頼を裏付けるものになります。

厳しい目を持つ画商をパートナーにできれば…

私もしばしば、1000万円以上する絵画を仕入れることがありますが、間違えば損失を出してしまうだけに非常に厳しい目で絵画を見るようになりました。また、画商の場合はお客様との長期的な信頼関係が大切ですから、購入した絵を買い戻したり、損傷した美術品を修繕したり、リクエストを受けて絵画を探しまわったり、絵画購入の良きパートナーになることを心がけています。

 

ですから、絵画を購入するにあたっては、まず信頼できそうな画廊を見つけることから始めてください。そして、できれば実際に画廊におもむいて、画商本人と話をしてみてください。会ってみれば、相手が信用できるかどうか専門知識を持っているかが分かります。

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ひとたび良いパートナーが見つかれば、様々なアドバイスをもらえるので絵画の購入がずっと楽になるはずです。インターネットで絵を購入するのも良いのですが、相手が信頼できるかどうかの確認は怠らないようにしましょう。私は一般の方から絵画の買い取りも行っていますが、しばしば真贋の怪しい絵が持ち込まれてきます。それらの絵の購入先を訊ねると、十中八九がインターネットオークションなのです。

 

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ネットの向こう側にいるのは生身の人間ですが、会って話をしてみなければ、相手がどのような人間かはわかりません。中には、悪意を持っている人がいないとも限りません。絵を見る目のある方は、きっと人を見る目も持っていることでしょう。どんなにITやAIが発達しても、生身の人間の描く絵と人間の内面がもたらす感動が美術の根幹にあると私は考えています。皆様の美術ライフが良きものとなるように願いつつ、本連載の筆をおかせていただきます。

取材・文/田島隆雄
※本インタビューは、2017年8月14日に収録したものです。