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連載引き継いだ赤字企業の「再生」術【第8回】

別会社を使った事業再生スキームで簿外債務の引継ぎを防ぐ方法

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別会社を使った事業再生スキームで簿外債務の引継ぎを防ぐ方法

中小企業では、杜撰な会計処理が行われがちなため、簿外債務が発生するおそれがあります。今回は、事業の再生にあたって簿外債務の引継ぎを防ぐ方法について具体的に見ていきます。

事業再生に大きな悪影響を及ぼす「簿外債務」

別会社を使った事業再生スキームは、後継者が行う事業再生の手段としてもベストの戦略といえます。それは簿外債務の問題と関わっています。

 

簿外債務とは会計帳簿に記載されていない債務のことです。中小企業では、杜撰な会計処理が行われがちなため、簿外債務が発生するおそれがあります。実際、後継者が経営を引き継いだ場合に、多額の簿外債務が発覚し、その処理に頭を悩まされることは珍しくありません。とりわけ、再建計画を立てた後に、想定外の簿外債務が見つかったりなどすれば、サポートを約束してくれた金融機関の不信を招くことは間違いなく、事業の再生に大きな悪影響を及ぼすことになるでしょう。

 

しかし、別会社を使った事業再生スキームを実行する場合には、後述する事業譲渡の手段を選ぶなどの工夫をすることで、簿外債務の引き継ぎを防ぐことが可能となります。そのため、後継者は不測の債務が現れる懸念や心配を抱くことなく、すなわち全く不安要素のない状態で経営再建に取り組むことができるのです。

 

このように、別会社を使った事業再生スキームは、後継者が後顧の憂いなく前に進むことを保障してくれるという点においても、非常に優れた戦略なのです。

 

もっとも、別会社を使った事業再生スキームを実際に行う場合には、弁護士等の専門家に依頼することが必要となるでしょう。しかし、だからといって、専門家にすべてを丸投げにして「これで後は万事OK」というスタンスでいるのは決して望ましくありません。

 

スキームの実行過程を適切に把握し、素人目にも明らかに問題があると思うのであれば、気付いた問題点を指摘し、また必要があれば是正を求めるのが、再生を主導する者の責務といえます。そのためには、別会社を使った事業再生スキームが、具体的にどのような形で行われるのか、どのような流れで進められるのかをしっかりと理解しておくことが必要となります。

 

そして、初めに最も基本的なポイントとして押さえておくべきことは、このスキームが、大きく2段階のプロセスに分かれている点です。すなわち、第一に別会社をつくるプロセスがあり、第二に元の会社を清算するプロセスがあるということです。前者については会社法で、後者については会社法と破産法でそのルールが詳細に定められています。では、それぞれのプロセスについて順に確認していきましょう。

別会社をつくる方法には事業譲渡と会社分割がある

まず、別会社を設立する方法としては、現在、大きく分けると、①事業譲渡と、②会社分割の2つの選択肢があります。

 

事業譲渡とは、会社の事業の全部または重要な一部を譲渡することです。2005年に制定された現行会社法が施行されるまでは、一般に営業譲渡あるいは営業権譲渡などと呼ばれていました。つまり、私が行った別会社による事業再生スキームは、この事業譲渡の方法に基づくものだったわけです。

 

一方、会社分割とは、1つの会社を2つ以上に分け、事業の全部または一部を分けた会社に譲って引き継がせることです。これは、2000年の商法改正により、初めて設けられた会社再編の仕組みです。したがって、私が事業再生に着手した1996年には、別会社を設立するための選択肢とすることはできませんでした。

 

また、会社分割には、新設分割と吸収分割という2つの方法があります。

 

新設分割とは、新設分割する会社、例えば甲社が、会社分割によって新しい会社、例えば乙社をつくり、その新会社に営業の全部または一部を引き継がせることをいいます。この場合、甲社を分割会社、乙社を設立会社といいます。

 

吸収分割とは、吸収分割をする会社、例えば甲社が、事業の全部または一部を、既に存在する他の会社、例えば丙社に引き継がせる場合をいいます。この場合、甲社を分割会社、丙社を承継会社といいます。

 

なお、新設分割、吸収分割いずれの場合にも、設立会社あるいは承継会社は対価として新株を発行しますが、分割会社自体に割り当てることができるほか、分割会社の株主に割り当てることもできます。会社分割が前者の仕組みで行われる場合を分社型、後者の仕組みで行われる場合を分割型といいます。

 

次回では、事業譲渡、新設分割、吸収分割等それぞれの進め方や効果について、具体的に解説していきましょう。
 

本連載は、2014年10月25日刊行の書籍『引き継いだ赤字企業を別会社を使って再生する方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

高山 義章

株式会社スペース 代表取締役兼CEO

1954年東京都生まれ。三井不動産販売退職後、祖父が大正12年に中野で創業した「山一不動産」の3代目に就任。バブル崩壊とともに300億円の負債を背負いながら、事業再生に奔走する。1996年「スペース」を創設し、「山一不動産」の営業権譲渡を行うことで、先代からの基盤を守り、社員を切り捨てることなく事業再生させた。現在はこの時の自身の経験を元に、同じような悩みを抱える中小企業経営者の相談に乗り、専門家チームのメンバーとして、ボランティアでアドバイザーも務めている。中野区観光協会準備会メンバー。一般社団法人中野区観光協会監事。

著者紹介

連載引き継いだ赤字企業の「再生」術

引き継いだ赤字企業を別会社を使って再生する方法

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高山 義章

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