事業承継で先代から引き継ぎたい「モノ・カネ以外のもの」

前回は、事業の再建に成功した赤字企業を任された経営者の役割について見てきました。今回は、事業承継においてモノ、カネ以外に引き継ぐべきものとは何かを見ていきます。

「会社のアイデンティティ」の存続は後継者の責務

先代を反面教師にしながらも、一方で引き継いだものの中で、守るべき価値があるものはしっかりと守り続けることも必要となるでしょう。

 

例えば創業の精神は、会社のアイデンティティの中核をなすものであり、存在理由そのものといえます。したがって、それをしっかりと受け継ぎ、さらに次代へ伝えていくことは後継者の重要な責務といえるでしょう。

 

同様に、創業時から伝えられてきた好ましい社風があるのなら、その維持・伝承についても心を砕くことが求められるはずです。

 

社風とは、会社の雰囲気、社内の人々に共有された行動の様式やスタイル等のことですが、とりわけ、自社が業界内において独特の社風を備えていると評価されているような場合には、社内と社外の両面において非常に大きなビジネス上、あるいは経営上の効果を発揮していることが少なくありません。

 

すなわち、長年の取引先はそうした独特の社風に魅力を感じて取引を続けているのかもしれません。また、従業員の労働意欲や生産性向上にプラスの影響を及ぼしている可能性もあるでしょう。

 

逆にいえば、もし創業以来伝えられてきた社風が失われるようなことがあれば、企業の魅力も消え去り、その結果、取引先からの関心を失うことになったり、従業員の仕事へのモチベーションが低下するおそれがあるかもしれません。

 

事業承継といえば、モノ、カネの側面ばかりに意識が向きがちになるかもしれませんが、先代から引き継ぐべきものは、そのような帳簿に記録されているもの、目に見えるもの以外にもあることを十分に心得ておきたいものです。

人材不足の問題の原因は「日本人の価値観の変化」!?

再生した事業を成長させていく段階では、大局的な視点に立って自社の舵取りを行うことが必要となります。そのような観点から見た場合に、これから企業を運営していく者が意識すべきことの一つは、現在、日本が成熟社会を迎えており、日本人の価値観が大きく変わろうとしていることです。

 

成熟社会とは、一般に「量的拡大のみを追求する経済成長が終息に向かう中で、精神的豊かさや生活の質の向上を重視する、平和で自由な社会」と定義されています。わかりやすくいえば、お金やモノよりも、心の豊かさ、人間らしい生き方を大切にする社会といえるでしょう。

 

高度成長時代やバブル経済の頃は、日本人の多くが物質的な豊かさを追い求めることばかりに夢中でした。その反面、人間らしさ、精神的な満足感は置き去りにされてきた感があるように思われます。成熟社会の中で、戦後の日本では長く忘れられてきたそうした本質的な問題、人にとって本当に大切なものは何かという問題に改めて目が向かっているわけです。

 

このような議論は、一見すると中小企業の経営にとって全く無関係であるように思えるかもしれませんが、決してそのようなことはありません。

 

例えば、現在、中小企業の人手不足、とりわけ若い人材を十分に確保できなくなっていることが深刻なテーマとなっています。おそらく、多くの企業経営者が「どうすれば、若者を集めることができるだろうか」と日々、頭を悩ませているはずです。

 

実は、このような人材難の問題とそれを解決するための手がかりは、成熟社会の中における日本人の価値観の転換と深く関わっているのです。

本連載は、2014年10月25日刊行の書籍『引き継いだ赤字企業を別会社を使って再生する方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

株式会社スペース 代表取締役兼CEO

1954年東京都生まれ。三井不動産販売退職後、祖父が大正12年に中野で創業した「山一不動産」の3代目に就任。バブル崩壊とともに300億円の負債を背負いながら、事業再生に奔走する。1996年「スペース」を創設し、「山一不動産」の営業権譲渡を行うことで、先代からの基盤を守り、社員を切り捨てることなく事業再生させた。現在はこの時の自身の経験を元に、同じような悩みを抱える中小企業経営者の相談に乗り、専門家チームのメンバーとして、ボランティアでアドバイザーも務めている。中野区観光協会準備会メンバー。一般社団法人中野区観光協会監事。

著者紹介

連載引き継いだ赤字企業の「再生」術

引き継いだ赤字企業を 別会社を使って再生する方法

引き継いだ赤字企業を 別会社を使って再生する方法

高山 義章

幻冬舎MC

中小企業の資金繰り悪化の対応策として時限立法として成立した法案、「金融円滑化法」が終了した。 現在のところ、これにより目立った動きはないものの、この先いつ債権者が債権処理に動き出してもおかしくはない。そうなれば…

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