前回は、治療費と休業損害の打ち切りを図る保険会社の実態について取り上げました。今回は、被害者の苦痛を増幅させる交通事故補償制度の現状について見ていきます。

示談交渉は傍若無人、こじれるとお抱え弁護士が・・・

保険会社は、態度などから被害者をランク付けしていることが多いのだ。実際、被害者の中には事件屋やその筋の人間が絡んでくることもある。そうでなくても執拗なクレーマーのような人物もいるだろう。そのような明らかに難しい相手から、おとなしそうでほとんど文句をいわなそうなタイプまで様々である。そしてとくに難しそうな相手との交渉には最初から弁護士をあてる。

 

それはいいとしても、先に触れたように保険会社のあまりの一方的で無礼なやり方に怒り心頭の被害者も多い。保険会社は自分たちの対応のまずさで怒らせてしまった被害者に対しても、弁護士を向けなんとかまとめようとする。また被害者感情として加害者に直接面談を求めるのは不自然なことではないが、これも執拗に被害者が求めると保険会社は弁護士を介入させる。このあたりの保険会社の対応は社内でマニュアル化されているのか、実に手慣れたものである。示談代行で傍若無人に振る舞いながら、こじれるとお抱え弁護士が登場して始末する。これが交通事故補償における保険会社のやり方なのである。

保険会社のやり方に再び傷つく被害者たち

このような傍若無人ともいえる保険会社の対応に、精神的に傷ついてしまう被害者も少なくない。実際、人間不信に陥ったり、うつ病になったりしてしまう被害者もいる。私はこれを交通事故の二次被害と呼んでいるが、非常に大きな問題だと考えている。

 

交通事故被害者が求めるのは補償というお金だけではない。加害者の誠意、心からの謝罪を求めてもいるのである。しかし、前述したように、保険会社はとにかく損害を最小に食い止めるため、症状固定や休業損害の打ち切りに躍起になっているだけ。到底そのような誠意を加害者に代わって示すことなど考慮してはいない。それどころか極力被害者と加害者の接点、人間的な関わりを排除しようとするのである。

 

加害者の中には、直接被害者に会って謝意を示したいという人もいるだろう。しかし保険会社は示談代行という立場を盾にして、それを許さない。もし加害者を被害者と会わせた場合、加害者が自分の非を認めるあまり「すべて私のせいです。財産をなげうってでも償います」などといい出さないとも限らない。これでは自分たちには都合が悪い。彼ら保険会社にはできるだけ短い治療期間に収めて、支払いを最小限にとどめたいという思惑がある。だからこそ、保険会社は窓口を買って出て、加害者と被害者との接点を一切持たせないのである。

 

それならば、せめて保険会社の担当者が加害者本人に代わってその誠意だけでも伝え、少しでも被害者の心を和らげる役割を担うべきだが、もちろん彼らにはそんな意識など毛頭ない。被害者との接触は電話や書面による事務連絡などの必要事項のみで、ほとんど被害者のもとへ足を運ぶことはない。医師とのやり取りに集中し、被害者からの問い合わせにもほとんど応じないのだ。

 

先に触れた詐病の疑いから始まり、治療費と休業損害を一方的に打ち切られた挙句、慰労の言葉の一つも、挨拶すらもない。交通事故被害者からしてみれば、ただでさえ多大な損害や苦痛を背負わされたうえに、このような心ない仕打ちの数々である。まともな精神状態でいろという方が無理な話ではないだろうか? 本来被害者の救済と保護を目的にするべき交通事故補償制度が、営利主義に走る保険会社によってその目的から大きくそれているばかりか、さらなる被害者の肉体的、精神的苦痛を増幅させているとしたら、実に許されざる事態であり、看過できない社会問題であるとさえいえるだろう。

本連載は、2015年12月22日刊行の書籍『ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

ブラック・トライアングル[改訂版] 温存された大手損保、闇の構造

谷 清司

幻冬舎メディアコンサルティング

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